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ショコラBB効く系男子
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「あのさー…」
楽屋に戻るなり、エイタは深いため息をついた。
俺は、またか…と思い、視線だけを向けると答えもせず畳の上に腰を下ろした。
エイタはいつも文句しか言わない。
そんなエイタに俺はうんざりしていた。
出来れば楽屋も別々でお願いしたい…
中性的と言うよりも、どちらかと言えば女っぽい顔に細い腰、仕草もどこかなよなよしていて、そこがファンにうけている。
そして、俺との身長差は15cm。
もちろん俺の方が高い。
エイタとは真逆の所謂細マッチョ体型に、さっぱりした顔立ちの俺は、ファンの間では『タチ』らしい。『攻め』とも言うんだっけな?
俺たちのファンは殆どが女性で、その全てが漏れなく腐っていた。
俺たちのどちらかとお近づきになりたい!と言うよりは、俺たちがイチャイチャするところを見たり、それ以上を妄想したりするのが楽しい様だ。
マジ怖え…なにそれ?
でも、事務所の方針もあって、俺たちは二人きりの時以外、それはもう仲睦まじくしている。
歌番組の前列に座っていない時も、いつカメラに映ってもいい様に、それとなくじゃれ合わないといけないし、歌の時は、まあ絡みがあっても振り付けと割り切れるとして、一度、偽オフに手を繋いで公園を散歩させられた時は、本気で目の前の池に飛び込んでやろうかと思った。
最初は家族が勝手に応募しただけで、全然やる気にはならなかった仕事だけど、やって行くうちに面白くなって、本気でアイドルになると決めた時は、枕でもなんでもしてやる!くらいの意気込みだったが、まさかこいつとこんなことをさせられるなんて夢にも思っていなかった…
確かに見た目はそんじょそこらの女の子より可愛いよ…
だけど、こいつ、実際は女の子扱いされるのが死ぬほど嫌いだから。
「はっ?これも俺宛て、これも俺宛て!キモっ!男がこんなんもらって喜ぶかっつーの!?」
今も目の前で、プレゼントのぬいぐるみやら、花やらをポイポイ床に投げつけている。
その行動がもう、女っぽい事に気づかない、とんでもないアホだ。
最低だ…
アイドル失格。
死んでしまえ!
もし楽屋にドッキリ隠しカメラでも仕掛けられてたら、俺までアイドル人生終わりじゃん。
まあ、それならそれでいいけどね…
とは言うものの、こいつなしでやって行く自信が俺にはない…
「なんだかなぁ…」
俺は小さく呟いて、目の前に置いてあった6本入りドリンクの梱包をビリビリ破って一本取り出す。
丸いフォルムの小瓶にピンク色のパッケージ"キレイをソッコーチャージ"の謳い文句。
これも完全にエイタへの差し入れだろう。
腹いせも含めて、蓋を開けると一気に飲み干した。
すっぱい…
仰った顔を元に戻すと、キョトンとした顔で俺を見つめるエイタと目が合った。
「なんだよ…?」
眉間に皺を寄せて睨みつけたつもりだが、動じるどころか、ぷっと言う小さな破裂音の後に堰を切ったように笑い出す。
「うははははははは!ケータ!お前ショコラBBなんか飲んでんの?しかも、キレイチャージのやつ!!超似合わねぇー!キンモー!!!」
前言撤回。
エイタは女々しいんじゃなくて、とことんガキっぽいんだ。
これしきの事で煽られては、大人として恥ずかしい——って、年変わんないけど…
「は?お前、飲んでないの?これ肌荒れとかにめっちゃ効くんだぜ?」
と、むしろ煽り返してやった。
そして、もう一本を手に取り蓋を開ける。
こうして余裕のある態度を見せつけてやれば、お子様エイタは必ずノッて来る。
「は?マジで言ってんの?またまたー、嘘だろ?な、嘘だろ?」
そう言いながら、近付いて来て、俺の顔を覗き込んだ。
こんだけわかり易く吊られると面白くて、つい調子に乗ってしまう。
「嘘じゃねぇよ…俺の家の冷蔵庫には、食料がなくてもこれだけは常備してるからな」
流石にこれは調子に乗りすぎたか、至近距離でエイタの綺麗な二重まぶたがジトッと座った。
「やっぱ、嘘じゃねぇーか…」
「ばっ、嘘じゃねぇよ!つーか知らないの?まさかお前、ショコラBB効かない系男子?アイドルなのに!?」
「なにそれ?ショコラBB効く系男子とか効かない系男子とかあんの…」
「マジで?それも知らないの?ヤバイだろ…次のCMもしかして俺らかもよ?」
嘘もそこまで大袈裟に盛れば信ぴょう性を帯びてくる。
エイタは精一杯訝しげな顔を作っているものの、どこか自信なさそうだ。
よし、あと一押し。
「とりあえず、お前がショコラBB効く系男子か試してみろよ。ほら。」
そう言って、飲みかけのショコラBBを差し出すと「えっ?」と、エイタは驚いた様な表情を浮かべた。
恐らく一度も見せたことのない素の顔—
俺も「えっ?」と口の中でつぶやく。
それが聞こえたのか、エイタは慌てて俺の手から小瓶をもぎ取り、グイッと一気に飲み干した。
プハーっと男らしく息を吐くが、その可愛らしい顔を真っ赤に染めていては、全然様になっていない。
俺は思わずブハッと吹き出してしまった。
「おまっ……まさか、間接キスで!?間接キスで照れてんの?ぷっ……今更!?ぷぁはははははは!!!」
本当に今更だ。
いくら振り付けだと言ったって、散々際どい絡みもして来たし、写真撮影なんかでキスを要求される事だってある。
「なのに……現場離れると……間接キスごときで………」
「わ、笑うな!つーか、照れてない!!照れてないからな!!!」
笑い過ぎて、ひーひー言う俺の胸を、エイタは耳まで真っ赤にした顔を隠すみたいに伏せてポカポカと殴った。
あー、女くせぇ。
そんな可愛いところと、アイドル根性見せつけられたら、公私混同しちゃうじゃないか——
「ってかさ、冷蔵庫に常備とかは嘘だろ?」
不貞腐れながらエイタが言う。
「嘘だと思うなら、見に来ればいいじゃん」
俺は涼しい顔でそう答えた。
すると、エイタはまた一瞬、ハッとした様な表情を浮かべた後、慌てて唇を尖らせる。
「しょーがねーから、確認しに行ってやるよ——で、いつ?」
なに?この可愛い生き物…
「そうだな…週刊誌が張ってる時がいんじゃね?」
そうやって意地悪く焦らしてやれば、更に頬を膨らませて「それ、いつだよ…」って言うから可愛くて仕方ない。
くそっ、こいつ、仕事もプライベートも紛うことなくアイドルだわ…
「今夜にでもお持ち帰りしたいくらいだよ—」
耳元で囁けば、また顔を真っ赤にして、思い切りどつかれた。
あー、マジで女みてぇー。
面倒せー。
畜生。
かわいいなぁ、畜生———
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