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地図アプリで検索しながら電車を乗り継ぎ、目的の会社へと向かう。
広告代理店に勤めていた頃は車を持っていたが、生活が様変わりしてからは車を売り払い、専《もっぱ》ら公共交通機関を利用している。もともと太っていたわけではないが、こうして歩くようになってから体重が減った。
もちろん、失ったものも多いのだが……。
株式会社エターナルと書かれた看板を見上げ、どうやら小さいというのは本当のようだと分かった。ビル自体は大きいのだが、フロア毎に様々な会社が入っているかたちのため、確かに一人で十分そうだ。
建物の入口で階を確認していると、後ろから声をかけられた。
「何かお探しですか?」
振り返った先には、爽やかな笑顔を浮かべた男が立っていた。どこか動物を思わせるような黒目がちの瞳はわりと好ましいが、初対面から向けられる笑顔にはふっと苦手意識が生まれた。
無口で愛想がいい方ではない自分とは違い過ぎるからかもしれない。
「エターナルという会社を」
「あ、うちの会社でしたか。失礼ですが、どんなご用件で?」
「申し遅れました。私はこういう者です」
最初の挨拶時にだけ利用する名刺を取り出して渡すと、目を通しながら男は頷いた。
「なるほど、清掃業者の方でしたか。そういえば頼むという話をしていたかな……。すみません。私の方は今、名刺の持ち合わせがなくて、代わりにこれで」
にこやかに頭を下げながら、男は自分の首から下げたネームホルダーを夕に見せる。そこには、「婚活アドバイザー 黒川大智」と書かれていた。
黒川の四六時中絶やさない笑顔を見て、婚活アドバイザーの仕事を深くは知らないが、黒川にならば相談しやすいのではないかと思う。
ただそれは一般論で、夕は相談するつもりは毛頭なかった。
「では、中の方へどうぞ。ご案内します」
案内されるままに中へ入って行きながら、清掃員の自分が黒川とまともな言葉を交わすのはこれきりだろうなと、どこかほっとしていた。
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