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ヴィーザルは俺をヒーローと言った。でもそれは違う。あの時、本当は喰おうと思ったんだ。でも無理だった……傷だらけの君を見てしまったから。
「なぁ、フェンリル……おねがいが、ある」
「なに……?」
「おれを、くってくれないか……?」
「なに、いって……」
「おれはもう、むりだ……ちから、はいんないし、ても、あしも、かんかくない……さいごにおまえの、ねがい、かなえたい……」
ヴィーザルに触れると、氷のように冷たくなっていた。
「やだ……やだよッ……」
せっかく仲良くなれたのに、やっとあの気持ちに気づけたのに……
涙が頬を伝い、溢れていく。
「さいごに、つえたい」
「最後なんて言わないでッ」
「好きだよ、フェンリル」
ヴィーザルの瞳から一粒の涙が零れた。呼吸は止まり彼の身体から熱が消えていた。
「ヴィーザル……?ヴィーザル!!」
痛みに耐えながら何度何度も心臓マッサージを行った。何度もヴィーザルの名前を呼びかけ、息を吹き返すまで。
でも、彼は戻ってこなかった。喰った後の人間のように動かなかった。
その時、サイレンの音が聞こえ、こっちに向かってくる。
息絶えたヴィーザルを抱き上げ、化け物となりその場から逃げた。
家に着き、ヴィーザルを寝かせる。
『ヴィーザルの肉を喰って死にたい』
その願いが叶う。なのに、何で嬉しくないんだろう。
『喰ってくれないか?』
死ぬ間際に残したヴィーザルの言葉。
「喰いたくないよッ……」
死にたくないわけじゃない。ヴィーザルと一緒なら、死なんか怖くない。ただ彼を傷付けるのがイヤなんだ。
だって、好きだから。好きになっちゃったんだから……
「何で今さら気づくかな、俺……」
冷たくなったヴィーザルに口付ける。
「好きだよ、ヴィーザル」
その言葉は彼にはもう届かない。でもちゃんと言いたいんだ。
最後だから……
「いただきます」
笑顔で手を合わせる。そして化け物となりヴィーザルを喰った。
「……ッ」
だんだん息が苦しくなり、体が痺れてくる。
「ヴィーザルッ」
少しずつ視界がぼやけて意識が保てなくなってきた。
あぁ、嬉しいなぁ……ヴィーザルの、好きな人の肉を食べて死ねるなんて……
意識が朦朧とする中、ヴィーザルの手を握り目を閉じた。
ありがとう、ヴィーザル。俺を殺してくれて。
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