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エデン
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「あ、あ、これは本物.......本物だ.......」
小さめのキャリーケースをから手を離し、神聖なものを見るかのように両手を合わせる夜空。夜空が今拝んでいるのは「永伝学園」である。と言ってもまだ敷地内ではなく、正門の外にいる。今日から夜空はここの寮で生活を送るのだ。
今日まではほんとうに色々あった。
夕空の言う「準備」にまさか引越しの準備が含まれているとは知らず、自分の荷物もダンボールに詰めだした夕空が寮にまで着いてくるのでは、と夜空は流石に怯えた。そこで漸く引越しの件を伝えられた夜空は、わざわざ夕空まで家を移すことは無い、と言おうとしたが、夜空が口を開く前に夕空はスマホの画面を見せた。
「ここ、新しい家ね」
夕空は既に新居を購入していた。それこそ夕空は、夜空の学園入学を許したその日にこの家を見つけ、次の日には軽い足取りで契約を済ませてきていた。「思い立ったが吉日」、夕空の好きな言葉である。
既に購入している状況だと、夜空も今更引っ越しをやめようとは言えず、今から1週間ほど前に新居に引っ越していた。
今日も、その新居から夕空がここまで送ってくれた。車で30分ほどの距離だったが、初めての道のりだったので次からはもう少し早く着けるかもしれない。と、夕空は言っていた。そんな頻繁に来ることがあるのか?そこまで考えて夜空はハッとした。もしかして、夕空も「お仲間」なのではないか、もしそうなら.......!と目を輝かせた夜空だったがやんわりと否定された。
「同性恋愛がダメだとかはないよ、私の友達にもそういう子居るし。友達に居ないとしても考えは一緒。好きな人と一緒に居るなんて皆してる、それがLOVEかLIKEかの違いってだけ。その違いは大きいかもしれないけど、好きなのに変わりはないからね、けど、あんたみたいに人の恋愛をみて盛り上がれる人種では無い。」
残念ながらお仲間ではなかったが、夜空の中で姉に対する好感度は更にあがった。何なら既にカンスト済みである。
と、その夕空も、夜空を下ろしてすぐ仕事に向かったのでここにはいない。夕空の方は寮の部屋まで夜空の荷物を持って着いてこようとしていたのだが、夜空は夕空のマネージャーと密かに繋がっており、この後直ぐに仕事が入っているのを知っていた為好意は有難いが、そうそうに夕空には仕事に向かってもらった。しかし、その後から夜空のズボンのポケットにあるスマホのバイブが止まない。怖いので夜空は気づいてないフリをし「姉ちゃん、お願いだから運転中はそっちに集中して.......!」と、念だけ送っておいた。
さて、十分拝んだところで、戦車でも出入りするのかと言う大きさの正門。「王道転校生」なら、編入学の際、よじ登りイベントを起こすが夜空はしない、出来ない。こんな背の高い門をよじ登る運動神経は持ち合わせていないし、仮に出来るとしてもやらない。その役目を担っているのは自分では無いからだ、来るであろう「王道転校生」に胸を高鳴らせながら、夜空はどこかにあるであろうインターホンを探した。
門のある白い壁の左側、ちょうど夜空の顔の高さにインターホンがあった。壁と同じような色をしていて若干見つけにくい。
「よし.......いざ、出陣.......!」
気持ち緊張しつつインターホンを押した。スピーカーから「ピンポーン」と、一般家庭にも馴染み深いお馴染みの音が聞こえてきた。見るからにお金持ち校で、キラキラしている学園のインターホンの音がこんな庶民的でいいのか、いや、別にいいんだろうけど.......これがギャップ萌え.......?
まぁ、そこは置いておいて、確かに音は鳴ったのに向こう側から何の返答もない。もしかしたら、気づかなかったのかもしれない、ともう一度ボタンを押す。
『ピンポーン』
「.............」
返答はない。
『ピンポーン』
「あのー、すいませーん。どなたかいらっしゃいませんかー?」
.............返答はない。
「すー!」
『ピンポーン』
「いー!」
『ピンポーン』
「まー!」
『ピンポーン』
「せー!」
『ピンポーン』
「んー!」
『ピンポーン』
取り敢えず連打しておいた。いい加減気づいて欲しいと思いつつ、夜空は追い打ちをかける。
「どなたかー!」
『ピンポーン』
「いらっしゃいまs」
「ちょ、待て待て!気づいた、気づいたから!!」
「あ、こんにちは」
流石に気づいたようなので、夜空はまたボタンに触れかけていた手を下ろした。声の主は男性、大分若そうだ。まぁ、男子校に女性の職員がいる方が珍しいとは思うが。それに、夜空にとっては、男性職員の方が今後の展開に色々と期待出来る。
「おー、こんにちは。待たせてすまんな、今、門開けてそっち行くから」
「お願いします」
スピーカーから声が聞こえなくなると、ゆっくりと門が開き始めた。開けるって鍵だけじゃないのか、門も自動か、いやこれだけ大きな門なら手動は厳しいだろうけど。流石王道学園、金持ち校だな、知ってたけど。見た目にこそ出ていないが、お手本のような環境にすこぶる、テンションが上がっている。それもあって、さっきはインターホンを鳴らしすぎた。でも、まぁ1回で気づいて貰えなかったし仕方ないか、と勝手に割り切ることにした。
「あーっと、今日寮に入る奴だよな?」
歩み寄りながら声をかけてくる長身イケメン。
「え、どちら様ですか?」
程よく鍛えられているのがわかる体、背も高い、180半ばはあるんじゃないだろうか。それでも、威圧感はさほど無い。自分で染め直しているのか、若干傷んだ明るめの茶髪、目の縁は並行で、瞳は茶色っぽいが髪よりも柔らかい色をしている。なんと言うか、「昔ヤンチャしてました」といった感じだ。
「え、あー、すまんすまん。」
あ、笑った。笑うとイケメンが増すなコノヤロウ、是非ほかの生徒さんの前でご披露ください。あわよくば、それを陰からそっとのぞかs、じゃなくて、見守らせて頂ければ幸いです。本物のイケメンを前にして夜空はエンジンが温まってきた。今日も今日とて、彼の原動力はBLである。
「俺、さっきインターホン出たの。気づくの遅れてすまんな、ちょーっと昼寝してた」
片手を顔の前まで上げて困った笑顔で謝るイケメン。
「あ、全然待ってないんで大丈夫ですよ」
夜空は秒で許した。いいもん見れたからプラマイプラスじゃん、位に思っている。願わくば、つぎは俺以外の誰かの前で。
「俺は 外木 秋矢(トキ シュウヤ)、あー、君は?」
「文月 夜空です。今日からよろしくお願いします!」
印象大事。挨拶は笑顔で元気よく、姉ちゃんがこれさえ出来てればどうにかなるって言ってた。というか、この先の展開考えたら意識せずとも笑顔になっちゃうけどね!もうニッコニコよ。
「あー、そうそう文月!笑顔と元気がよろしくて何より、んじゃ寮長の所まで案内するから着いて来てなー」
「はーい」
やっぱり居ますよね!寮長!!オカン系?親戚のお兄さん系?未亡人系?みんな違ってみんないい!!脳内こそパレードのような賑やかさだが、実際は大人しく荷物を引いて外木の後ろを大人しく着いて歩いている。脳内と外面の温度差で風邪でもひきそうなレベルだ。
「文月、荷物持とうか?結構歩くけど」
「え、これめちゃくちゃ詰め込んだんで重いですよ」
「なら尚更、キャリー引きにくい道も通るしこの後職員室行ったり荷解きで忙しいだろ?体力残しとかないとな」
はー、なるほどね、外木さんそういう感じね?と1人脳内で拍手をする。
「じゃあ、お言葉に甘えて!お願いします!」
「まかしとけ、ってほんとにこれ何入ってんだ?」
「えー、夢と希望とかですかねー」
「んだそれ」
夜空にとっての”夢と希望”なので嘘は言っていない。具体的には言えないが。
その後も、談笑しながらゆっくりと10分ほど歩いたところで寮と思わしき建物の前まで来た。
「はいはいはい」
正門の時点で分かってはいたがこれはとてもいい王道。夜空の目の前にはバカデカい寮、見た目はリゾート地の高級ホテルと言われても違和感ないレベルのものだ。これですよこれ!ここで数多の愛が育まれていく訳ですよ……!高ぶる気持ちを抑える為深く呼吸をする。
「どうした?疲れたか」
「え、あー、まぁそうですね」
むしろ供給の真っ只中に居るおかげで常に回復魔法でもかけられている気分なのだがそういう事にしておいた。
「んじゃさっさと終わらような、中入るぞ」
あ、なんか最後のえrなど本能レベルで考えつつはーいと寮の入口に踏み込んだ。
「フロア抜けてすぐのこっち、寮長の部屋。あいつ基本ここにいるからなんかあったら覗いてみな」
あいつ、って何ですか?親しい間柄なんですか?ちょっと見逃せない、見逃しちゃいけない。夜空限定のエスパーである夕空がここにいたらこの短時間でなんど小突かれているか分からない。いたとしても辞めないのが夜空だが。
「了解です!あの、寮長さんと親しいんですか?」
「あぁ、お互い暇な時にくっちゃべる位には親しい?んかね」
「そうなんですねぇ」
夜空はガッツポーズを心の中で決めた。
二人の時間がある、それだけで供給。みなまで言わずとも、妄想で補えます故、いや、見せていただけるのなら願ってもない事なんですけどね??
夜空の前に立つ外木は寮長室の受付窓を覗く。
「表にいねぇな、裏か?」
そう言って隣の入口を開く。鍵はかかっていなかったらしい。
「おーい、小鳩!」
入口から顔だけで覗いて寮長であろう人の名を叫ぶ。その声で夜空もようやく現実に戻ってきた。
「うッッッせぇな!!聞こえとるわ!」
続いて扉の奥から聞こえた声に夜空はビクッと体を跳ねさせた。
え、ガラ悪、外木さん大丈夫?中にいるのヤーさんとかじゃない?ドスの効いた声に夜空はビビっていた。現在、いのちだいじに状態である。
「なら早く出てこいよ!新入生来てんだよ!」
「はぁ?!」
話題に上がる自分、奥から聞こえる地響きのような声。え、これ逃げていい?なんか失われし野生の勘が逃げろって言ってる気がする。思いながらも実際にはビビって動けないのだが。
地響、、声の聞こえた方からドスドス今度は慌てたような足音が聞こえる。すぐに勢いよく開くドア、それを避ける外木。そして中から出てきた男。
「……」
ガラ悪ッッッ!!!!!え、外木さんは昔やんちゃしてたんだなぁって可愛い感じだけどこの人現役じゃん?むしろそっちの人じゃん?目付きとかモロに。
男は寝起きなのか、無造作に掻きあげられた黒髪。目つきは鋭く、なぜか眉間に皺を寄せ夜空を睨んでいる。
何かした???俺何かした?????夜空はこの瞬間、逃げるが勝ちという言葉が大好きになった。
男はしばらく夜空を見たあとゆっくり視線を外木に移す。
「新入生が、来るのは、9時過ぎじゃないのか……」
「もう過ぎてるんすわ」
溜息を吐きながら外木が答える。ガラの悪い男はうなだれて頭を抱えだした。
なんなんだ……?なに?とりあえず俺は無罪でしょ???蛇に睨まれた蛙から離脱できた夜空はそっと立ち位置を外木の影になるように移動した。
頭を掻き顔を上げた男はちょっと待ってろ、と言って部屋に戻って行く。
「あの……」
「あぁ、あいつねあんな感じでガラ悪いけど文月が来んのめちゃくちゃ楽しみにしてんの」
「はい?楽しみ……?」
睨まれましたが?割と本気で怖かったので夜空は根に持っている。
「そ、昨日も業者がやってったのに君の部屋の掃除やら備品のチェックやら、夜になったら案内パンフレットとか寮内図の要点にマーカー引いたり書き足したり、大方その後も楽しみでなかなか寝付けなかったんでしょ」
許す。可愛い。ヤーさんとか思っててごめんなさい、人は見かけによらない、心に刻みます。身をもって感じたギャップ萌に手のひらを返す夜空。このギャップを4Dで体験できるなら手のひら位グネングネンになるまで返そうと追加で心に刻んでおいた。
「あいつ年下可愛がりたいからって寮長なってんのにあんなんだから今の在校生ほぼ距離置かれてんの、だから今年は編入生来るって分かってからずっと、」
「おいこら余計なことこれ以上喋んな絞めんぞ」
追加情報うまうましてたら本人登場。声色は先程より落ち着いているが内容が物騒である。しかし、ギャップ萌えお兄さんだと気づいてしまえば何も怖くはない。もう彼は夜空にとって観察対象なのである。
「……悪かったな、急に怒鳴って」
愛い!!!申し訳なさそうに視線を外しながら謝る様子に夜空は心のシャッターで連写した。これで対象が自分じゃなければ更にメシウマな光景なのだが贅沢は言っていられない、目の前にこんな供給があるのに摂取しない訳には行かない。夜空は決して心の内を悟られないように深めに呼吸をした。
「いえいえー、遠くまで聞こえて?いいと思います!!」
「そうか……」
男はどことなく嬉しそうに見える。初の編入生との会話だからだろうか。
夜空の謎フォローが下手なのは置いておいて、自己紹介が始まった。
「小鳩 琳久(コバト リク)、もう聞いてるだろうが一応ここの寮長だ」
「文月 夜空です!三年間よろしくお願いしますー!」
「よろしく」
んぁ”、笑った!!!!!イケメン!!!!!!絶対笑ってた方がいいって!!ああ、でもギャップ!そのギャップがいいんだよなッッッ!!え、てか待って、生徒には距離置かれてるとか諸々知ってる外木さんは小鳩さんのこういう表情も知ってる訳でしょ??始まりませんか??これから?これからですか????外面スマイルの下でだいぶ荒ぶっている夜空。脳内では自重などしない、同じ人種はみんなこうだと夜空は信じている。
「んじゃ、寝坊助ん所に文月連れてこれたし俺は戻るわ。あとはよろしくー」
小鳩はそれに舌打ちで返しついでに野良猫を手で追い払うよな仕草も外木に向けた。寝坊助呼ばわりはムカつくが事実なので特に反論はしない。
「あ、外木さん案内ありがとうございました!荷物も助かりました」
外木がここまで引いてきたキャリーケースは気づいたら今度は小鳩の手に渡っていたりするが、なんだか運ぶ気満々の様なので夜空は有難くお願いしておいた。
振り向きもせず手だけ振り返していた外木が寮の扉まで来て夜空を見た。なにか伝え忘れかと首を傾げる夜空、外木はニッと笑う。
「小鳩が怖いなら、なんかあった時は俺んとこに来てもいいから、な。」
最後に煽るような視線を小鳩に向けて外木は今度こそ扉を出て来た道を戻って行った。
なになになになに??外木さんって小鳩さんで遊んでる?あ、良、反応見て楽しんでるんだね……でも、出来れば俺から距離を置いたところでやって欲しいなんて思ったり。
背後に立つ小鳩の気配が黒い、夜空は振り向けない。
小鳩さんそんなに見た目怖いの気にしてるの?言うてイケメンじゃん、強面イケメンの可能性って無限大だよ??んまぁ、本人が気にするのとは別問題かもしれないけどさぁ。
とりあえず、この空気をどうにかしなければと意を決してゆっくりと振り返る。
「こ、小鳩さーん……?俺、自分の部屋早く見てみたいなぁなんて…………」
いつも姉ちゃんの出てるテレビ見てるからいけると思った、などと後の夜空は語った。まぁ、立派な大根である。セリフが棒読みというか睨みをきかせた小鳩と目が合い声はだんだん小さくなっていった。
ダメじゃんこの状況どうするの?悪化してない?と、とりあえず笑みだけは崩さずに小鳩を見る夜空。ビビって動けないだけとも言う。
小鳩はそんな夜空を見てすっと黒い気配を引っ込めた。資料とキャリーケースを持ち直す。
「待たせて悪かったな、行くか」
ここで、夜空に自分には演技の才能があるかもしれないとひとつ勘違いが生まれた。自身の新たなる才能(笑)と機嫌の治った小鳩にルンルンで実際すこし楽しみにしていた自室へと向かう。
「文月の部屋は三階の304号室、同室が一人いるが悪い話は聞かないし良い奴だと思うぞ」
次のイベントktkr!!同室が誰かはまじで大事、腐的な事を抜きにしても!今後の俺の生活がかかってる訳なので。小鳩さんの話では悪い人ではないそうなので取り敢えずは安心出来そうだと、更にウキウキ気分であるだろうなとは思っていたエレベーターに乗り込んだ。
「同室、って言っても個室がある。風呂とトイレと簡易キッチンは共同だな」
エレベーターに乗り込んで渡された手描きの部屋の見取り図を見る。こんなものまで用意していたのか……そんなに編入生が嬉しかったんだなと小鳩の可愛さを再確認した。
見取り図には真ん中にリビング、入口から見て左手にお風呂、右手にトイレ。リビングの左右に対になるように個室が一つづつ付いている。無駄にでかいけど使っていい訳だし、どうせすぐ荷物でいっぱいになるだろうしなと漫画や小説で見る世界観に夜空は胸がいっぱいである。
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