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回想
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「姉上、何卒お願い致します.......!」
「.......愚弟よ、まずは何故そこを選んだのかを聞こうじゃないか」
何故?何故ってそんなの.......
「毎日たっっっっっくさんのカップル♂︎達を陰ながら見守るためです!!!!!」
「うん、却下」
清々しいほどにこやかに、若干被せるようにして言い放ったのは姉の夕空(ゆら)。
「どうしてええぇぇぇぇぇぇええぇぇえ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
五体投地をする形になりながら床に声を上げる夜空(よあ)。ココ最近で1番の大声を上げた夜空を、不動明王のように見下ろしている夕空もまた、稀に見る爽やかな笑顔で口を開いた。
「動機が不純」
「ご最も!!!!!」
何も言い返せねぇ!!姉ちゃん強い!!!
でも!強いて言うなら!!彼らの恋愛自体は不純では無い!!!断じて無い!!!!!彼らは純粋に愛し合っているだけであって、そこにダメな事など何ひとつとしてないのだ!
強く言い返せないからとその分夜空は脳内で言葉を並べる。
「お願い、姉ちゃん!俺ココに通いたくて勉強すっごい頑張ったんだよ?!担任にも、特待生枠狙えるって言われてるし、特待生枠だと、学費だって免除されるから!ね!お願い!!」
「.......」
そう、夜空はある高校に入学する為に中学の3年間死に物狂いで頑張った。それこそ、腐男子の生命の源であるbl本の摂取量を減らしてまで。元も悪くなかった夜空は、その努力のかいもあって3年間、優秀な成績を収めた。そう、例え、原動力がblであっても結果は結果である。
そして、夜空の入学したいある高校とは、まさに絵に描いたような所謂『王道学園』であり、その学園の名前は『私立永伝学園』。全寮制の男子高校だ。この学園のパンフレットを見つけた時、思ったことを夜空は夕空に告げる。
「ここが探し求めてた俺の『エデン』なんだよ姉ちゃん!!」
そう、正しくここは『永伝(えでん)学園』だ。
しかし、腐男子からすれば二つの意味での『エデン』になる。
「本当に、ここに入りたいの?」
「え、もっちろ.......」
「学費なんかを気にしてるなら考えを改なよ、私の財力舐めんな?」
進学先の確認を姉にしてる時点で察しているかもしれないが、夜空の身内は姉の夕空のみである。
夜空はほとんど覚えていないが、父親が典型的なクズ野郎で両親が離婚。姉弟ふたりは母親に引き取られたが、その母親も夜空が小学校を卒業する前に交通事故で亡くなっている。そこから身寄りの無くなった2人はあちこちタライ回しにされ、最終的に母方の親戚に引き取られるが、その親戚も母が2人を育てる為に残した貯蓄が目当てのクズであった。そこで当時、夜空の7つ上で高校3年だった夕空は卒業と同時に声をかけられていたモデル業へと足を踏み出した。長く艶のある黒髪とその髪とは相対的に白い肌、そしてモデルをするに申し分ないスタイル。なにより、人受けのいいサバサバした性格とノリのいい所もあり、モデル業界だけでなく、バラエティ番組にも引っ張りだこの所謂「人気芸能人」に上り詰めた。
と、そんな夕空に夜空1人の学費を払うことは本当に難しいことでは無い。だが、夜空は昔から遠慮がちと言うか、頼るべき所で人に頼ろうとしないのを夕空は知っている。
だからこそ、夕空は余計な気遣いをしていないかと夜空に釘を刺した。
一方で、夜空は「なんで、姉ちゃんこんな男前なのに姉ちゃんなんだろ。勿体ない」と、本人に気づかれたら何かしら言われそうな考えを頭を振って払い、背筋を伸ばして夕空を見た。
「確かに、ここに入りたいのは学費が免除されるってのもあるよ、」
「じゃあ、」
「でも!それはあくまでついで!!それを抜きにしても、俺は本当にここがいい!創作の中だけだと思っていた夢みたいな場所が実在してるんだ!!.......それも、姉ちゃんからしたら不純な理由かも知れないけど、絶対楽しいと思うんだ。もちろん、勉強も頑張るよ!成績だって落とさないし、長期の休みになったら帰ってくるから!!」
ほぼノンブレスで言い切った夜空。これは本心であり、学費の免除も、最初はそれを気にして進学先を選んでいた節はあるが、その時見つけた「永伝学園」そこから学費は二の次に、何がなんでもここに入ることが目標となっていた。しばらく見つめあっていた2人であったが、夕空の方から目を逸らした。こうなると、先に目を逸らすのはいつも夜空の方であってこのパターンは珍しい。もしかして相当怒らせてしまったのかもしれないと夜空が不安になったその時。
「誕生日.......」
「え、」
「私の誕生日には絶対帰ってきなさいよ、あんたが居ないと祝ってくれる人が居ないでしょ」
人気芸能人の夕空に限って実際、そんな事はありえないのだが、この仕事を始めてからも誕生日は2人でお祝いをしている。明確に決まり事にした訳では無いがお互いの誕生日を祝うことが2人の中で特別なものになっていた。
夜空は珍しく可愛いお願いをされたのかもしれない、と口元を綻ばせた。
「俺の誕生日にも帰ってくるよ、その時は姉ちゃんがお祝い、してくれるでしょ?」
夕空は締まりのない弟の顔を仕方がなさそうに見る。
「当たり前でしょ」
夕空はなんだかんだ7つも下の弟が可愛くて仕方がないのだ。あんな一生懸命お願いされては、これ以上こちらが止める理由はない。そもそも夕空が夜空の「永伝学園」入学を潔く認めなかったのは、学費の件で遠慮してるのではないか、の他に、現在の家から遠い。帰省しにくくなる。の2点であった。しかし、良く考えれば夜空の意志を曲げるのでは無く「住む場所を移せばいい」という考えに至った。なぜこんな簡単なことに気づかなかったのか、と夕空は疲れてる訳でもないのにと息を吐く。この姉、普段こそサバサバしており弟に対しても放任主義のような状態かと思いきやその実、物凄く過保護である。何かあった時に駆けつけることの出来る範囲に居住を置きたいのだ。
「じゃ、そうと決まったら準備しないとね」
「引越しの」と、内心付け加えた夕空。夜空は夕空をみて首を傾げた。
「え、もう?早くない??」
「準備は早い方がいいでしょ」
「そうだけどさぁ.......」
夕空はギリギリになるまで引越しの件を夜空に伝えることはなかった。そして、引越しの事実を知った夜空が姉の発想と行動力に驚き、それを少し嬉しく思ったのはそう遠くない3月の下旬のお話。
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