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2 俺のものになれ
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俺がインテグラル・スカイと出会ったのは魔法を覚えたてのガキの頃だった。
ただ、覚えたてといっても、力が生まれつき強大であったため、どちらかといえばコントロールする訓練をしている最中だった、が正しい。
俺はその日、稀代の魔術師である義父の言いつけで、たった一人で砂漠に来ていた。
しかも、その砂漠はただの砂漠ではなく、魔物が数多く生息するため、住民は全く近寄ろうとせず、魔の砂漠と呼ばれていた。
「アーリーのやつ、俺を殺す気なんじゃねえか?」
ぶつくさ義父のアーリーに対する愚痴を零していた時だった。
砂漠の岩陰に、一頭の大きなトラを見つけた。
雪のように白い毛並みをしており、青色のガラスのような目は美しいが、三叉に別れた尾がただのトラではないと示している。
「青猫《せいびょう》!」
俺はすぐに身構えながら、青猫の通常よりも数倍は大きな体つきに冷や汗が浮かぶ。
青猫はその名の通り、猫のような気質で、性格は気まぐれだが、ひとたび怒らせると完膚なきまでに痛めつけなければ絶対に引いたりしない。
しかも、この青猫は恐らくは何者かと戦った後のようで、無数に引っかき傷があり、毛が逆立ち、気が立っているのが明らかだ。
「これでも聞いて眠りな」
俺は青猫から繰り出される攻撃を交わしながら、得意な音魔法を使うべく、横笛を懐から取り出す。
音魔法とは、音を奏でることで敵を操り、従わせたりすることができる魔法で、戦闘を有利に運ぶことができる。
もっと魔力をコントロールできるようになれば音魔法で攻撃ができるらしいが、俺はまだ従わせるだけしかできない。
笛を奏で、青猫を眠らせようとしたが、途中で頭上に影が差し、不意に響いた声で注意が逸れる。
「ほう。いい音色だ」
喉奥で笑うような声はあまりに耳に心地よく、半ばぼうっとしながら見上げた先には七色の光があった。
「え……?」
何だあれ、の台詞は、青猫から勢いよく引っ掻かれて途切れる。
「つっ……ぅ」
引っ掻かれた弾みで笛が飛んでいき、あまりの痛さに膝をつく。
「こんな、ところで……っ!」
死んでたまるか、の意味を込めながら、今まさに飛びかかろうとしている青猫を睨んだ途端だった。
七色の光が青猫を包んだかと思うと、青猫が咆哮を上げ、次の瞬間には倒れて身動き一つしなくなっていた。
「一体、何が……」
理由もわからずに青猫に近づけば、青猫の体はさらさらと砂のように消えていく。
一瞬だけ青猫がいた場所の砂が虹色に光ったが、目を凝らした時にはただの砂に戻っていた。
「……?」
「少年、戦いの最中はどんなことがあっても敵から意識を逸らしたらいけない」
「誰だ!」
砂から顔を上げて辺りを見回すが、そこには何の姿もない。
あるのは、果てしなく続く砂漠と、眩い程に照り輝く太陽だけだ。
「そもそもさっきのはお前が邪魔しなければ」
脳内に声を響かせる魔物?
いや、砂漠の下にでも隠れているのか?
試しに地に耳を近づければ、むしろ空から響くような声が返ってきた。
「言い訳だな。俺が助けなければどうなっていたか」
「誰も助けてなんて言っていない!」
神経を逆なでされて叫べば、声は笑い声を響かせる。
「気だけ強い子だな。面白い。俺はインテグラル・スカイ。倒したい時は探せ。尤も、俺の姿をまともに見ればお前は一歩も動けなくなるだろうな」
「何だと」
「お前がもう少し大きくなれば、その時は戦おうじゃないか。お前が負けたら俺のものになれ」
「望むところだ!」
俺のものになれ、の意味を理解しないまま、売り言葉に買い言葉で返すと、インテグラル・スカイは笑いながらいなくなった。
それが俺とインテグラル・スカイの出会いで、俺が15になった時から戦いは始まり、20代半ばになった今まで一度も決着は着いていない。
大人になった今ならば、インテグラル・スカイがどういう意味であの台詞を吐いたか少しは分かるため、絶対に負けるわけにはいかなかった。
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