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ウサギは狼に夢中
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儚くも淡いピンク色の花弁。 春の報せを告げる桜が風とともに綺麗な青空を彩るように、ひらひらと枚散る。
特徴的な癖のある、パーマ掛かった色素の薄い茶色い髪が風と共に靡く。
(ああ、高校生になったんだ)
パンフレットで何度も見た高校。
心踊る気持ちを胸に手を当てて落ち着かせ、垂れ目の瞳が少し涙ぐんだ。
そう、青井晴人(アオイ ハルヒト)は本日をもって高校生になるのだ。
親に反対されながらも、それを押しきって田舎からわざわざ遠いこの高校を選んだ自分。
決して実家が嫌だった訳では無い。
寧ろ家族の元を離れるのは寂しい位だった。しかし、それを押しきってまで、どうしても会いたい人がいたのだ。
それ以上の理由が有るだろうか。
お世辞にも頭が良い方ではなかった晴人の努力は凄まじいものだった。無理矢理詰め込んだ単語に公式にと。
努力は報われるものだと痛感した合格発表の時。
「よう、なに突っ立ってんの?」
「今、入学出来たことに感動してんの」
背後からの問い掛けに驚く素振りも見せず返答を返す晴人。
まだ入学式さえ始まっていないこの場所で、話し掛ける奴は一人しか居いはずだと、確認するため振り返る。
荒井和成(アライ カズナリ)入学試験で偶然意気投合し、仲良くなったその人だった。
一言で言えば爽やか。付け足すならば、スポーツマンだろうな、と思わせる短髪が似合う好青年。
180センチを越えているだろうその身長は、175センチに満たない自分を見下しているようで何とも言えない気持ちにさせてくれた。
「また会えるとは思わなかったぜ。な、はるちゃん」
「クラスも一緒だったらいーのにね、かず」
お互いにじゃらけて呼びあったあだ名を言っていく。
上京したての右も左も分からない晴人にとって、和成は心強い味方に思えた。
知らない土地に足を踏み込み、ただ憧れの人に会いたい一心で勢いに任せて選んだ人生。
彼は自分の事など忘れているかも知れない。淡い期待は現実のものになるとは限らないが、それでもこの胸の鼓動は止む事はないだろう。
入学式も無事終わり、和成とは同じクラスだった。二人揃って喜び合う合間にも、気になるのは彼の事。
ーー滝澤 貴文(タキザワ タカフミ)
その姿を見付けた瞬間、心が跳び跳ねた。何度も何度も頭のなかで忘れないようにと想っていた相手。
偶然にも同じクラスで、その人は今、同じ教室で同じ空気を吸っている。
夢にまで見た光景が現実になっている、信じられないがこれは夢では無いのだ。
落ち着かない気持ちで問い掛ける。
「…あそこのさ、ほら」
担任の先生はまだ来ないのか、ざわつく教室で一人読書を読んでいる滝澤に指を指す。
「ああ、滝澤?同じ中学だったんだけどさ、一匹狼で有名だったなぁ。なに、知ってんの?」
「ちょっとねー。イケメンだな、って思って」
知ってるも何も想いを寄せているなど言えるわけもなく、彼の一つを知ることが出来、焦る気持ちを隠しながら平常心を保ちつつ返答する。
「え、はるちゃんそっち系?」
「えー?冗談でもキツいこと言わないでよ女の子系ですー」
面白半分でオカマの振りなのか、顎にてを当てて笑う和成。
此処に入学する前。
中学校の同級生である友達に、自分が都会にある男子校に入学すると伝えた時だった。男子校ならではなのか、同性愛も有ると言っていたのだ。
自分がホモだと思いたくは無かったが、彼に出会ってしまった時点でその仲間入りをしてしまっている。
男に片想いしている今、好都合としか言えない状態な訳だが、だからと言ってカミングアウトするのは勘弁して欲しかった。
もしバレて噂が回ってしまえば、自ずと彼の耳にまで届くだろう。
きっと軽蔑されてしまう。
まだ話してすらいないのに。
仲良くなる前にそうなるのは避けたかった。
和成の行動に笑いながら、やっぱり考えるのは彼の事。
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