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全然ロマンチックじゃなかった!
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外はお日様がぽかぽかで気持ちがいい。街路樹の緑も光り輝いている。
そんな中で、長い黒髪を持つ悪魔の存在だけが妙に浮いて見えた。町人の服を着ていても、身から溢れる威圧感と美麗すぎる顔が異彩を放っている。
「よしサーシェ、町を案内しろ」
「ええっ?」
「できないのか? なら……」
「いいえ、やります!」
できないなら帰る、などと言われてはたまらない。ラズの声をかき消す勢いで返事をして、魔力不足で怠い足を懸命に動かした。
(町を案内しろって言われたって、どこに行けばいいんだろう)
この町は観光地ではない、特産品があるわけでもない、坂の途中にある行商の中継地点だ。
まだ露店が開いている時間でもないし……迷った末に、サーシェは町の中心部にある広場に向かうことにした。
家並みが続く坂道を必死に登っていると、ラズは面倒くさそうに文句を告げる。
「おい、やる気があるのか。足が遅すぎる」
「うぐっ、すみません……これでも精一杯、なんです……」
慌てて出てきたから、魔力回復ポーションを飲む暇がなかった。開店前のポーション屋を恨めしげに見つめていると、ラズは急にサーシェの顎を捉えた。
「んんっ!?」
キスをされた、と理解するのと同時に、凄まじい速度で魔力が流れ込んできた。身体中に火花が駆け巡ったかのような衝撃に耐えかねて、石畳の上にへたり込む。
「ふぐっ……! いきなり何をするんですか!」
「魔力をわけてやっただけだろう。なにを怒ることがある」
ペロリと唇を舐める顔は平静で、ごく当たり前の親切を施しただけといった様子だった。サーシェを開放して数歩足を進めたラズは、思いついたように意地悪く笑う。
「ああ、ひょっとして初めてだったのか?」
「……っ! 行きましょう、無駄口を叩いてる暇なんてないんです!」
(ううっ、こんなの認めたくない、全然ロマンチックじゃなかった……!)
内心涙を飲みながら、幾分軽くなった足取りでラズの半歩前を歩いた。
町の中心部では露店の出店準備が行われていて、ちらほらと人がいた。広場の中央には花壇があり、一面に白いアネモネが植えられている。
「この花壇は終戦記念に作られたもので、この町出身の大魔法使いが好きだった花が植えられています。現在では、死者の魂が安らかにあるよう願う花として……って、聞いてます?」
サーシェの説明そっちのけで、ラズは露店の出店物を興味深く見ていた。
「あれは何だ」
眉をしかめながら目を凝らすと、陶器のカップには印象的な星のマークが描かれていた。サーシェは途端に笑みを浮かべ、胸を張って説明をする。
「ああ、あれは簡易魔法陣です! 僕の師匠、ローリエ様が開発したんですよ。陣に魔力を注いでおくと、中の飲み物の温度が変えられる優れものなんです」
師匠はいつも、誰かを幸せにするために魔法を使っている。たくさんの人に幸せを届けられる師匠のことを、サーシェは尊敬していた。
(ああ、それなのに僕は、自分の願い事のために悪魔を召喚してしまった)
「ローリエ? ふうん、そうか」
思考が暗いほうに沈みかけたけれど、ラズはサーシェの反応などお構いなしに長い足を無造作に動かし、露店へと向かう。
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