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極めて優秀な執事
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「気を付けてくださいね。人間は壊れやすいですから」
カラカラに乾いた砂に足を取られ、前のめりに倒れてしまった僕の頭上から、優しい声が降り注いだ。地べたに両手をつき四つん這いという情けない格好の僕は、バツの悪さを隠すため、つい憎まれ口を叩いてしまう。
「ラヴィは心配し過ぎ。砂漠で転んだって怪我なんかするワケないじゃん」
反抗的な目で見上げた先には、端正な顔立ちの青年がいつものように穏やかに笑っていた。
砂漠にはおよそ不釣り合いな燕尾服。長時間歩き続けても汗一つかかない、ツルリとした白い肌。砂埃に煽られた藍色の髪がサラサラと揺れ、ほんのり緑を含んだ孔雀の羽みたいな青い瞳が僕を真っすぐ見つめている。
スッと目の前に差し伸べられたのは、華奢に見えても意外と力強く逞しい腕。僕はその腕を見ながら、ゆっくり首を横に振る。
「一人で立てる」
「そうおっしゃらずに」
ラヴィは有無を言わさずグイっと手を引っ張り、僕を強引に立ち上がらせた。
つないだ手から伝わるのは、ヒトの皮膚とは違う弾力のある樹脂の感触。作り物の生体反応。ひんやり冷たい細い指。
僕は服についた砂を雑に払いながら、しげしげとラヴィを見つめた。
「ラヴィは十年経っても全然変わらないね。初めて出会った時のまんまだ。過保護なところも、ね」
「名前はもちろん、髪や眼、輪郭に骨格……この身の全て、あなた様がお決めになられたのですよ。そんな神にも等しい主に対して、過保護にもなりましょう。むしろもっと甘やかしたいほどです」
どこからどう見ても人間に見える彼は、「極めて優秀な男性執事」というコンセプトで販売された、二世代前の人型アンドロイドだ。
一般人の生涯年収と同等くらいの価格だったラヴィを、七歳になった一人息子の誕生日にポンと買い与えてしまえる程度に、あの頃の僕の家は裕福だったのだろう。
……今はもう、ラヴィ以外は何も残っていないけれど。
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