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見えない臓器
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「そ、それは意志じゃなくてAI学習の賜物ってことだろ? だって旧型のスペックじゃ、感情なんて形のないもの宿るわけがない」
いくつもの経験からパターンを学び、その時に相応しい反応を覚える。そういうことだろ? と思う反面、人間だって赤ん坊の頃から自我があるわけじゃないよな、とも思った。
そんな僕の戸惑いを見透かすように、ラヴィがククッと肩を揺らす。
「形のないもの、ですか。可笑しなことをおっしゃいますね。人間は、目に見えない臓器にも名前を付けているというのに」
「見えない、臓器……?」
「心ですよ」
そう言われて、僕は無意識に胸に手を置いていた。だけどここにあるのは心臓だ。確かに、本当は心なんてものは存在しなくて、脳から送られてくるただの電気信号かもしれない。
でもそれじゃあ、どうしてラヴィを想うと胸の奥がこんなに痛くなるんだろう。
「今までラヴィが話していた言葉は、AIの模範解答じゃなくて、そこにちゃんと感情が込められてたってこと?」
「その通りです。毎日、毎秒、あなたを愛おしいと思いながら接しておりましたが、お気づきになりませんでしたか?」
「気づいてた。でも、勘違いだと思ってた」
僕は存在を確かめるようにラヴィの頬に手を伸ばし、恐る恐る輪郭をなぞる。
「本当に、大掛かりな修理は必要ない?」
「明日には私の破損部位は元通りになっておりますから、ご安心ください」
ラヴィに触れている指先が震え、一度引っ込んだ涙が再びあふれてきた。
「命令がなくても……ずっと側にいてくれる?」
「もちろんです」
ラヴィが視線を合わせたまま、その両腕で僕を包み込む。
「あなたがLa vieと名付けてくださったあの瞬間から、文字通り私は命を吹き込まれました。生涯お供いたします。あなたが永遠の眠りにつくその時まで」
自らの意志で惜しげもなく忠誠を誓うラヴィの顔が、だんだん近づいてくる。
「キスする許可を頂いても?」
「……聞くな、ばか」
さっきより、もっとずっと深い口づけ。
ラヴィの中にも、確かに見えない臓器が存在すると思えた。
明日どうなるかわからないこんな世界でも。
目の前にラヴィがいる。
その事実だけで充分だ。
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