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氷漬けされた男
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「こんのクソ男おおおおお!!」
若い女性の怒号が、静かな夜の住宅街に響き渡った。と、同時にバキバキと何かが割れるような音がする。
「な、何かあったのか」
アルバイトの帰り道だった春待(はるまち)灯(あかし)は女性の声がした方向へ自転車を走らせた。凍てつくような寒さが肌を包み込む。
「なんか、ここだけさっむ……」
灯は垂れてきた鼻水を豪快にすすった。息を吐けば白くなる。ハンドルを握る手はかじかんできて、手袋をしとけばよかったと後悔した。
外灯に照らされているところに人影が見える。
「あそこか?」
そこには、不自然な格好をした男性と白髪の女性がいた。
「コスプレ?」
灯が二度見をすると、女性は慌てて髪の毛を隠す。
「あ、やばっ……」
白髪の髪の毛が茶髪に変わる。灯はそのことよりも、氷漬けにされた男性から目が離せなかった。
「こ、凍っとる……」
灯はおそるおそる男性を見る。男性は手を上げて、口を大きく開けていた。腰あたりまでカチンコチンに氷で固められている。
「あ、違うの、これはね……」
茶髪になった女性は言い訳をするように、両手のひらを見せた。キラキラと外灯の光に反射して、氷の結晶が煌めく。
「寒くないんですか?」
灯はコートを着込んでいた。それなのに、女性が着ていたのは薄手のワンピース。コートやマフラーをしていない。凍えそうな寒さなのに違和感を感じた。
「え? ええ、暑がりなの」
笑って答える女性の吐く息は白くない。だんだんと怖くなってきた灯は、自転車の向きを変えた。
女性に背を向けた途端、身震いをするような寒さに襲われる。
「やばくね、この状況」
灯は後ろを振り返らずに、ペダルを漕いだ。曲がり角を曲がろうと、ハンドルをきった瞬間ーー人影が。
「あぶねぇぇえ!」
派手に灯は転んだ。ぶつかる寸前にこけたから、相手はきっと無傷だろう。灯は自転車に挟まりながら、顔を上げると同い年ぐらいの少年がいた。
「あ、あの……あの女の人が人を氷漬けに……!」
背後を指差しながら、灯は助けを求める。暗くて女性の姿は見えない。それでも、男2人という状況に、これで大丈夫だと、ほっとした。
「見ちゃったんだ」
冷たい声だった。やわらかい口調なのに、灯はゾクリと身震いをする。灯は危機を感じた。自転車を放置して、素早く起き上がる。ペダルが空回りをして、カラカラ、とタイヤが回りだす。
「仲間……?」
一歩、二歩と後ずさる灯。
「あ」
また何かにぶつかった。
頬にはヒンヤリとした空気が流れる。
「ウソだろ……?」
嫌な予感がしながら後ろを振り返ると、そこには氷が。
「いつのまに……」
退路を絶たれた灯は、にっこりと笑う少年を見る。ヒンヤリとした空気が灯の肌を刺す。歯は恐怖と寒さでガチガチと音を立てていた。
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