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#4
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赤ん坊に一番必要なのは……そう、母乳だ。
神と言えど、残念ながら俺は母乳は出せない。ということで知る限り一番信頼できる、嫉妬の女神の元へ頼みに行った。
「あら可愛い赤ん坊! もしかして、くれるの?」
「違う違う。突然悪いけど頼みがあるんだ。この前たくさん子ども産んでたよね? もしまだ母乳が出るなら、この子にお乳を飲ませてやってくれないかな?」
隙あらば赤子を貰おうとしている彼女に、両手を合わせて頼み込んだ。
この世界で息をしている時点で、この子も人ではない。だがやはり、生きる為には飲み食いが必要のはずだ。
せっかく生まれてきたのに、このまま死なせたくない。
「どうしましょ~。タダじゃあげられないわね」
「頼むよ。靴舐めようか?」
「気持ち悪いからいい。じゃ、今度良い男紹介して。人型でね」
「わかった」
まだ子作りする気か。
度肝を抜かれながらも感謝して、彼女に赤ん坊を抱かせる。何も考えずお乳をあげるところを見ようとしたら平手打ちされたので、急いで部屋から出た。
やはり生命力は強いようで、赤ん坊は週に一回授乳するだけですくすく育った。
安心してるけど、何より────嬉しい。
「あっという間に喋り出すんだろうなぁ。……この子には、俺が父親ってことにしたい。本当のことは隠してくおいてくれないか」
「いいけど……別に隠さなくても良いんじゃない? ここでは血の繋がりなんて重要ではないもの」
「そうなんだけど。育ての親だと、遠慮して我儘言えないかもしれないから」
拾った当初は性別も分からなかったが、男の子だと分かると少し安心した。この荒れた世界で生きるには、どうしたって逞しい方が得をする。
けど何があろうと、この子は俺が守る。
歩き出して、喋るようになって、ようやく自分が知る存在になった。基本は館の中で過ごさせているけど、外の空気が落ち着いている時間は窓を開け、二人で黒い空を眺めた。
「今日は光の粒も散ってて綺麗だな」
「うん!」
無垢な笑顔を向けられ、こちらまで明るくなる。
心が洗われる……。
恐らく、この子は邪神の類ではない。かつて自分が天上にいた時に包まれていた、清浄な気が感じられる。
力云々ではなく、この世界では狙われる存在だ。女神以外には知られることがないよう、匿って育てないとならない。
外の空気も毒と同じだから、ここに篭っているのが一番良い。……とは言え、好奇心旺盛な頃の彼を宥めるのは中々骨が折れた。
「ねえねえ、いつになったらお外に行けるの?」
「うーん。大人になったら行けるよ」
「いつ大人になるの?」
「……」
子どもというのは本当に難しい。
生まれた時から心身ともに成熟している神がほとんどだし、俺もそうだ。彼が珍しいわけで、質問攻めにされると困る。
彼の力が強くなるまで、彼の出生についてあまり触れないようにしよう。
俺が元々天上にいたことも隠し通すつもりだ。話したら、きっと彼はそこへ行きたがる。
「じゃあ! ヴェルムはいつ大人になったの?」
彼は、黒い宝石のような瞳をこちらに向けた。
この世の汚いものなんて何も知らない、混じりっけのない視線。時折堕ちるところまで堕ちた自分と比較して落ち込みそうになるけど、それより愛しさの方が遥かに勝る。
柔らかい、絹のような髪を撫で、彼を自分の膝に座らせた。
「お前が生まれたとき、かな」
正確には、彼を見つけたとき。
この子が物心つく時から父親だと偽り、欺いている。いつバレるかひやひやしてるし、こんな嘘だらけの自分にも嫌気がさす。
それでも今さら、彼を手放すことなんてできなかった。
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