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天狗の神隠し
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天狗はヤツデの葉で仰ぎ返す。蓮が放った風の刃は消えた。
「半端者が勝てるわけなかろう」
力の差は圧倒的だ。それでも蓮は諦めきれない。この天狗を倒さねば、劉星に会えないからだ。
「無駄や」
天狗は蓮に向かって風の刃を突き付ける。蓮は刃を扇子で防ぎつつ、天狗の懐に飛び込んだ。ヤツデの葉さえ、落としてしまえば勝ち目があると思ったからだ。
ヒュン、ヒュン、ヒュンと無数の風が蓮の身体を切り裂いていく。
「負けてたまるかよ!!」
蓮は渾身の力を振り絞り、ヤツデの葉を叩き落とした。傷跡はゆっくりと塞がってはいるが、蓮の出血量はかなり多い。
「これで俺の勝ちだな」
誇らしげに蓮が腰に手を当てる。だが、天狗は笑っている。
「なにがおかしいんだ」
蓮は首をかしげる。天狗は蓮に向かって手を広げた。
「グッ……」
蓮の身体が宙に浮く。踏ん張ることもできなくて、蓮は足をばたつかせた。
「葉だけが武器ではない」
天狗は神通力を使い、蓮の身体を縛り上げた。蓮の骨は軋んでは再生される。血が身体中を巡っている感覚が止まらない。ドクドク、と心臓は激しく動き、ネズミのように駆け巡る。
「り、劉星……」
死ぬかもしれない、蓮は動かせないはずの手を空に掲げた。
「手が動くとは…」
天狗は蓮が身体を動かせられると思ってはいないようで、目を大きく開いた。蓮にかけられた神通力の力が緩む。
その時、天狗の前に黒い物体が落ちてきた。漆黒の羽をまき散らしながら、天狗にぶつかる。蓮は天狗による神通力が解放され、地面に落ちた。
「蓮、どうして……」
劉星は傷だらけになった蓮を抱く。蓮はゴフッ、と血を吐いた。
「ワシを捨てるのか」
天狗はもの悲しそうに劉星を見る。蓮は心が痛くなった。それと同時に、劉星がどちらの選択をするのか不安に陥る。助けに来たとはいえ、それは妹のためかもしれない。
「捨てるもなにも、拾った覚えはない」
ぶっきらぼうに劉星が言えば、天狗は怒りに満ちた顔で手をかざした。劉星はぎゅっと蓮を抱きしめる。劉星の手は震えていた。
「俺には……お前だけだ」
蓮は最後の力を振り絞り、劉星に抱きつく。劉星の反応からして、死を覚悟した。劉星は蓮を優しく抱きしめ返す。
天狗によって放たれた真っ白な光が二人を包みこむ。二人はお互いを見つめあっていた。まばたきを惜しむほどに。
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