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森 久美子
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松永と俺の入学式も終わり、俺は松永の大学の1年生の履修説明会の為に松永に同行していた。
キャンパスの校門をくぐったところから奴らはいた。
新入生を堕落に導く諸悪の根源。サークル勧誘の奴らだ。
松永は人ごみが本当に嫌なようで、俺を前に立たせ、盾にして高校時代に見せた絶対拒絶を発動しようとしていた。
うぉ。久しぶりに見た。
松永の顔の表情が全くなくなる。どこを見ているのかさっぱり分からない瞳。
気のせいだろうが松永の瞳の光がすぅ、と失われて声をかけづらい雰囲気を体中にほとばらせている。
そこまで嫌なのか、とおかしく思った。
だがサークル勧誘の奴らは俺らを見逃してはくれなかった。
まず俺が捕まる。
「わ!!君いい体してるねー!!何か運動してた?」
「イケメン君だぁ。ねーねー。もうサークル決まったのぉ?」
男には女が声をかけるルールでもこの大学にはあるのか。
博多弁の俺らからしたら、慣れていない東京の言葉のイントネーションは実は不愉快だった。
気持ち悪い。男もなよっとしている。「なんなんだよねー」とか何がだよねーだ。
今は全くそうは思わないが最初の2カ月位はそう思っていた。
一通り俺の前で女共はキャッキャした後、背中に隠れている松永の存在に気付く。
「わー・・・・・肌綺麗。お人形さんみたいな顔してるー」
「君の友達?二人共少しでいいからさ、そこでサークルのこと説明してるから聞くだけでもいいから来てよ」
この繰り返しがえんえんと続く。
松永の絶対拒絶をかいくぐる猛者共が果敢に立ち向かってくる。
囲まれてキャッキャ、ウフフと、本当に嫌気が差す。
それを松永は聞こえているのか聞こえていないのか、俺の背中を押しながら突き進む。
俺を盾にするんかい。
なんとかそれらをかいくぐぐり、説明会会場に着く。
後ろの席を確保し二人で座る。
松永は真面目に壇上の教授と学生部の人間の授業の履修の仕方の話を聞いてメモを取っている。
俺はというと「松永を見てるんじゃねええええ!!ガルルルルッ!!」とたまに視線をこちらに向ける連中を威嚇していた。
やはり松永の外見は目立つ。目立ってしまっている。
「長野、もてるね」
メモを取っていた松永がこちらを見て笑う。
「見られてる。あそこの三人組みに」
ああ、そうですか。
お前も見られてますけどそれには気付かんのかい。
さすが絶対拒絶。自分に関してのものは全て遮断でもしてんのか。その技、自分に向けられるものには鈍感になる効力でもあるのか。
説明会も終わり、会場を後にする。サークル勧誘の奴らはさっぱりと消えていた。
「はぁ、疲れた」
松永はいつもの松永に戻っている。疲れた顔をしていた。
「おう、疲れたな。帰るか」
「うーん、少しキャンパス歩いてもいい?人の少ない今のうちに見ておきたい」
「いいよ」
「ありがとう」
松永とキャンパスを回る。
二人で歩いているとキャンパスの大階段のところに牛がいた。
「は?」
「おぉう?」
二人はキャンパスに似つかわしくないその存在を凝視する。
「うぉ、立った!!」
階段のところにおっさんのように膝を開いて座っていた牛は二足で立ちあがっていた。
声が聞こえてくる。
「やばくない?」
「そうね」
牛と思っていたのは牛の着ぐるみを着た人間だった。
その牛の陰に隠れていて気付かなかったが人間の男もいる。
「なんだあれは。松永近くで見てみる?」
「うん」
松永も珍しく興味を持ったらしい。
近づいていくとその牛の大きさが分かった。横にでかい。そしてその着ぐるみを着ているのが女性と分かってさらに驚く。
近づく二人に牛と男が気付く。
「ん?君達一年生?」
「はい」
牛に声をかけられて俺は答える。この大学の学生ではなかったが。
「そうなんだー。鍋食べる?」
「お?」
カセットコンロに火がついて鍋がぐつぐつと湯気を出していた。
「何してるんですか?」
「鍋作ってる」
「なんでまた?」
「ああ、新入生勧誘で鍋無料配布しようとしてーん」
もう一年生は帰っていたが。ここで牛の顔を見て後ろの松永を見た。松永も多分同じことを思っている顔だ。
森 久美子だ。森 久美子にそっくりだ、と。
「新入生勧誘って、もう今いませんよ」
「ああ、遅刻しちゃって。鍋作って出てきたら誰もいなかったんだよね」
男が初めて話かけた。
こちらは見た目が、マンガのキャラで一番先に死にそうな感じの影が薄い男だった。後に名前は児玉で部長をしていると名乗った。
「何のサークルなんですか?」
牛の着ぐるみを着た森 久美子は答えた。
「あーん。園芸部よー」
「園芸部?」
「そう。野菜を作ったり畑を掘ったりー」
「この鍋もその野菜で?」
「ううん、スーパーアルプスで全部買ったー。野菜なんて収穫出来なかったしー」
おい。
「今ね、サークルの部員私たち二年生二人なわけー。でー、私はここの校舎じゃなくてもう一つの校舎の学生なんだけどーん。ここで勧誘出来なかったらこの部、終わっちゃう可能性大。でもしょうがないのかなー、テニスサークルみたいな合コンサークルの方がいいんでしょうしね!!ほんと奴らテニスしてんのか。他のことで忙しいんだろうしね!!」
森 久美子の迫力すげー。テニスサークルが嫌いっていうのが分かる迫力だった。
お前が原因で新入生が寄って来ていない気がするのだが。
何故、そんなに牛の着ぐるみが似合うのか。
「1年生入りそうなんですか?」
俺の背後にいた松永が初めてしゃべりかけた。
森 久美子は松永の存在に気付いて
「うわぁああああ!!すごい!!すごい!!」
と言い出した。
「な・何がですか?」
「君すごくいい!!もうー!!」
「はい?」
「君すごく綺麗な顔してるねー!!彼女とかいるの?」
森久美子ぉ!!何言い出しやがる!!
「俺彼氏です!!」
その場の雰囲気が「・・・・・・え?」という空気に包まれる。
松永が言葉には出さないが、俺を睨んでいた。
ああ、俺家に帰って怒られるのかな。
「やーん!!彼氏っていうことは二人は付き合ってるのかなー?」
「です!!」
「違います!!」
森 久美子の問いかけに二人は同時に違う反応をする。
この森 久美子め!!俺の松永に興味出してんじゃねーよ!!牛舎に帰れ!!
「君達いい!!で、いつから付き合ってるの?どうやって知りあったの?」
「おぉう?」
「・・・・え?」
どうやら森 久美子の中の何かを俺達は刺激する存在らしい。
食いつきがすごかった。俺の勘違いだったようだ。こういうことってすんなり受け入れられるものなのか。
「ちょっと、児玉!!部室行くわよ!!鍋持って!!君達、鍋食べてって!!」
「いや、お前もコンロぐらい持てよ」
「そこの台車に乗せればいいでしょ。児玉、早く来て!!君達行くわよー!!鍋食べに来て!!」
森 久美子が牛の着ぐるみで走って行った。
「あの、児玉さん。僕たちどうすれば」
松永が困惑している。
「僕のこと思うなら君達来てくれない?来なかったら僕がどやされるんだよね」
児玉がんばれ。
俺と松永は児玉の悲しい懇願に異もなくついていってあげることにした。
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