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奈落
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僕は眠りに落ちていく長野を振り返って見ていた。
完全に長野は眠りに落ちた。
「おやすみ」
声の届かない場所に落ちて行った長野に小声で声をかけた。
前を向く。
ベッドに裸で腰かけている状態で、テーブルの上の紙パックのリプトンミルクティーを手を伸ばして取り、飲んだ。喉が渇いていた。
背後で長野の寝息が聞こえる。
時計を見ると0時を過ぎていた。
「かれこれ10時間やってたのか。。。。エッチってこんな長くするもんなのか?」
楽しいことには時間が過ぎるのが早く感じる、とは誰かが言っていたのか、本で読んだかマスメディアがそんなことを言っていたのかは知らないが本当にそうだなと思った。
初めて人と裸で体を重ねたが、人の肌とこんなに密着して過ごすのが気持ちいいものとは知らなかった。
長野の体温や体が僕の上で脈打つのを感じたり、長野の吐息が僕の顔にかかるのを感じるたび、安らいだ。いとおしくなった。
あともう一つ気付いたのは
「エッチって変なとこが筋肉痛になるな・・・・・」
ということだ。
体育の授業では筋肉痛にならないような場所が筋肉痛になっていた。
「なんで太ももの裏側や二の腕の裏の部分がプルプルするんだ。。。。」
僕が知らないだけでこれはふつーじゃないのかもしれない。
僕はエッチをするのが初めてだから、今まで長野が僕にしてきた行為が実は
「ふつーの人はエッチではしない変態的な行為」
を僕に繰り出していたのかもしれないが。
こういうことは人に聞けるような類のものじゃないし、僕には分からない。
そして、今。
饗宴が終わった後のような静かな空虚感。
長野と体を重ねて余計に、長野を強く感じた。今でも長野が触った感覚や、まぁ、いろいろとされた感触が体に残っている。
ただそばにいるだけで十分僕は満足していたのに。
長野の質問攻めも、たまに抱きしめてこようとする行為も、僕を見る優しい目も。
僕の手を引っ張る大きな手も。長野の大きな背中を前に見るのも。
ただそれだけで満足していたのに。
愛の予感に包まれている日常だけで幸せだったのに。
ただそばにいるだけで幸せだったのに。
体重ねちゃったらもう・・・・・後戻り出来んやないか。
長野が離れていった時、生きていけんくなる位に愛してしまっとる。
体で長野の存在を感じてしまったら、体が覚えて忘れんくなろうが。
今、数字が減っていくデジタル表示のカウントダウンが自分の体に刻まれたような気がする。
長野、僕は人を拒絶して生きて来たからなんとなく分かる。
小さい頃からそういうのをたくさん見て来たからなんとなく、感覚でしかないんだけれど。
なんでこんなに確固たる予感を持って感じるんだろう。
長野、お前は多分僕じゃ満足出来なくなる。
僕が隣にいるのを特別に思わんどころか、逆に思う日が来る。
僕は誰も必要としない生き方を選んで来たけれど、お前はそれをこじ開けて僕を引っ張り出したんぞ。
知らなきゃこんなに弱くならんかった。
もう誰も求めんからそばにいて欲しい。僕のわがままなんだけど。
無理やろうなぁ。長野変態やし、どんどん新しい刺激求めるんやろうなあ。僕みたいな生き物やないしなあ。。。。。
こしあんドーナツ好きだというだけで、土曜日のお昼は必ずこしあんドーナツ食べてもう10年経った僕みたいな生き物やないしなあ。
モスバーガーに行ったら最初に食べたテリヤキチキンバーガーしか頼めなくなって、それ以外食べたことない僕みたいな生き物やないしなあ。
例えが変かもしらんけど、長野はそんな性格じゃないしなあ。
長野が僕を見て来たように僕も長野を見て来たから分かる。
初エッチしたということで長野のように浮かれられん。僕の性格だろうけど。
今だけの一時の幸せや感情じゃ嫌なんだ。
恋人になったということはつまり、行く先は添い遂げるか、別れかの二択しかないんだろう?
長野、お前はどっちを選ぶ?
僕はずっと一つしか願わない自信あるんやけど。
でも、お前は違うんやろう?今は僕と同じ選択しか見えてないんやろうけど。
あー、なんでこんな悲しいんかなぁ。
「お願い、長野。一秒でもいいから僕と長く一緒にいてください」
後ろの長野の頬を撫でて、長野には聞こえない僕の願いを伝えた。
僕は多分こうやって少しずつ体に刻まれたカウントダウンと共に、底のない落とし穴に今から落ちていくんだろうなあと思った。
途中途中にいい思い出二人で刻めたらいいな。
それだけで生きていけるような幸せな一瞬を刻められたらいい。
また自分だけの世界に戻ったとしても、それを慰めとして、何度も何度も思い出して生きていけるような気がするから。
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