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ストーカー
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なかなか時間が取れない。二人の時間だ。
土曜日には松永と一緒に松永の大学に行き、松永は午前中の体育の授業を受ける。
その間、俺は園芸部でその他大勢の鎌田、児玉、お富さんとくだらない話をする。
お昼にモリクミと授業を終えた松永が現れる。
日曜日だけだ。二人っきりで一日全てを過ごせるのは。
松永は1年生のうちに履修が出来るだけ目いっぱい授業を入れて、後で楽しようという堅実な性格だったので朝の1限から4、5限授業を平日に入れていた。
俺も松永に合わせようと出来るだけ一緒に家にいる時間が長く持てるように調整したつもりだが、時間が足りない。
二人の時間が足りない。
松永は授業が終わったとしても図書館に行って勉強する、と携帯にメールか電話をして来てまっすぐ帰って来ないことも多かった。
「ほんとに図書館で勉強してんのか?」
「は?」
「本当は図書館なんて嘘で実は」
「バカか。もう切るよ」
ツーツー。
切ない。
とある土曜日。
松永とモリクミを待つ園芸部で、同じ校舎で授業を受けている鎌田や児玉、お富さんに(モリクミは同じ大学だが別校舎)それとなく、
「松永どんな感じ?」
と俺が見られない大学内の生活の様子を聞いた。
「松永君は同じ講義がいくつかあるけど、いつも前の席に座って真面目に講義受けてるよねえ。今度ノート見せてもらおう」
鎌田はあまり授業には真面目に出ていないようで松永を頼りにしてやがるな。今度松永に見せるなと言っておこう。
「注目はされてる」
「注目?」
児玉の言葉に初めて反応した。
今まで反応したことがないっていう位に児玉が地味ということだが。
「うん。あの見た目で、不思議な感じだし」
「不思議?」
お富さんがカメラの点検を止めて俺に言った。
「松永君の授業を受けている姿を見てみれば分かるんじゃない?大教室の講義なら後ろの席にいれば人多いからばれないだろうし。小クラスでもばれないんじゃないかしら。見た方が分かるでしょ」
「そうだな」
俺はお富さんの提案を受け入れて、俺の大学の講義をズル休みして松永の大学に行く。
鎌田、児玉、お富さん情報によると1限はマクロ経済学の授業で大教室からか。。。。
その教室の前で鎌田と会う。
「あ、来たんだ。松永君まだ来てないっぽいけど後ろに座っててもどうせばれないよ」
「そうなん?」
「うん、座って見てれば分かるかと」
鎌田と一緒に教室に入る。松永の姿はどこにもない。
一番後ろの右端の席から背後の扉を見る。松永が入ってくるのを5分位待ったところで松永が入って来た。
松永、絶対拒絶発動しとる・・・・・。
どこを見ているか分からない視線。誰のことも見ていない。
「松永君、僕が同じ授業を取ってるのいまだに知らないんだろうなあ」
鎌田が前に進んでいく松永を見ながら言う。
席に着いている他の生徒も知らず知らずに松永を見る。視線を外せないようだ。
注目されている意味も分かる気がした。
絶対拒絶を発動している時の松永は謎めいて変なオーラ出しまくるからなあ。
あの見た目であの雰囲気は常人じゃ出せないからガン見もされるわな。
松永はそんな生徒たちの視線にも気付いていないのか教壇の一番前の席に座る。
教壇の一番前に座る生徒なんているわけもなく、松永の周囲の席は全部空いていた。
松永は一人でそこに座るとテキストを取り出す。
姿勢のよい後姿。
教授が壇上に立つと、教授は松永に向かって授業をしているように見えた。
「あの教授、松永に個人授業しとるみたいやな」
教授、松永しか見とらんやないか。
「他の授業でもそうだよ。あれだけ真面目に聴いてノート取ってるから教授もやりがいあるし、嬉しいんじゃない?松永君、教授たちからは人気ありそう」
教授、松永に笑いかけながら講義しとるけど他の寝ている生徒や携帯いじってる生徒ガン無視やな。ま、俺でもそうなるわな。
他の授業でも全てそうだった。
小教室の出席を取るクラスでも同じく、すぐそばにいる児玉や俺にも気付いていない。
お昼休みには松永は園芸部の部室に入って行った。お昼も一人飯なんか。
松永、高校の中と同じ絶対拒絶フル活用やな・・・・。
4限の授業でも同じ感じだった。
ただ、複数の女が4限の授業で授業前に席に着いている松永に声をかけていた。
「松永君、今度の語学のテスト勉強してる?」
「うん」
「ノート見せてほしいな」
「今持ってない」
「今度見せてくれる?」
「うん」
「今度語学クラスのみんなで飲み会しようって。松永君も来るよね」
「ううん」
「えー、松永君行こうよー」
「ううん、忙しいから」
松永そっけなさすぎる。
話の内容から、女どもは松永と同じ必修(必ず取らないといけない授業。これ落とすと留年)の語学クラスの生徒らしいが、松永に気があるのは見え見えだった。
松永が大好きな俺から見たらお前たちの気持ちはよく分かる。
だがな!!松永の絶対拒絶はそう簡単には打ち破れねえんだよ!!俺なんか3年かかってんぞ!!
それにお前ら、後ろに彼氏おるぞ、こら!!
「長野君、顔怖いから。落ち着いて」
お富さんに諌(いさ)められて、その女どもが松永の絶対拒絶に打ち負かされるのを見ていた。
全ての授業が終わって松永は大学内の図書館へと向かう。
図書館に入る前に、その手前のベンチに座って松永は携帯を取り出した。
何か操作をしている。
俺の携帯のメールの着信音が鳴った。
『今日は図書館寄るから遅れるけど、なん食べたい?帰りスーパー寄るけん。7時には帰る』
松永を見ているとその場を離れず、携帯をじっと見て返事を待っていた。
俺は急いで返事を打つ。
『はよ、帰って来い。ハンバーグ食いたい。お前も食べたい。愛しとーよ』
松永はメールを読んでいる。
絶対拒絶が解かれて松永が微笑んでいた。俺にしか見せない大好きな笑顔だ。
『うん』
短い返事だったが松永は携帯を両手に持ってしばらくそのまま携帯を眺めていた。
松永は指を動かして携帯をまた操作している。
多分、バイブ機能にしているんだろう。
図書館にいると言う時は、俺のメールの返事が遅れて来る時があった。
地下の書庫にいる時もあって電波が届かないこともある、と言っていたことがある。
本当に気付いていなかったのだろう。
携帯をバッグに入れると、松永はまた絶対拒絶を発動する。
松永は図書館に入っていった。
「長野君。松永君はいつもあんな調子。あれだけ他者を排除出来るのも珍しいね。周囲のことなんて本当にどうでもいい、みたいに。君だけなんじゃない?松永君と同じ時間を過ごせてるの」
「そうだな」
いつの間にか後ろに立っていたお富さんが声をかけてきた。
児玉や鎌田もいる。モリクミも何故かいた。モリクミ呼ばれたのだろうか。今日はまともな普段着の格好をしていた。
「君、今どんな気持ち?」
お富さんが言う。
「どうしようもなく幸せだ」
そう言った俺をお富さんは構えたカメラで撮影した。
俺は後で気付くであろうメールを松永に送る。
『家にいても暇やけん、園芸部に来た。みんなもおる。みんなでなんか食べよ。また鍋だろうがな』
「よし!!松永来るまでにうまい鍋作ろうぜ!!」
「そうね!!児玉!!出動よ!!」
「また俺。。。。」
「鎌田!!金出して!!」
「なんで俺!?」
「あたしこの前のタイと衣装とチラシで財産吹っ飛んだ」
「僕園芸部じゃないんだが・・・・・・」
「こういう時に力発揮するのが部長よね」
「お富、そこに目を付けるとはさすがね。児玉金出しといて、あと私レモンチューハイ4本」
こいつら本当にひどいな。
「俺スーパードライ飲みたい」
「あーん、長野くーん。また酔って松永君にいろいろしてー」
「おう!!」
「今度は写真逃さない」
「お金本当に僕たちが出すのかい。。。。」
図書館にいる松永はこんな会話があって、この後俺から卑猥なセクハラされまくって、モリクミのギラギラした視線でガン見されながらお富さんに写真を撮られるなんてその時のお前は知らないんだろうな。
この日、ずっと見ていた俺が不安が拭われて、幸せな気持ちになったことも、その時のお前は知らないんだろうな。
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