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吉野の憂鬱
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「いいなぁ、いいなぁ」
吉野はそう言いながら僕を見つめいてた。
「何が?」
「滅多にそんなことないからさ」
吉野とはいつの間にか昼食を一緒に食べる仲になっていた。
その日も園芸部で昼食を二人で食べていた。
初めて長野と吉野を対面させた日、僕が体育の授業を終わって園芸部に入ると
「お前ぇええ!!松永は俺のもんやけんな!!」
「君たちには全く、エッチな気分になれる要素はない」
「なんですってー!!あんたブス専?ブサイク男好きな突っ込まれる方なの?ねえ、あんたブサイク好きなの?ブサイクに突っ込まれちゃうの?」
「うるせぇええ!!僕はもっと年上の男が好きなんだよ!!誰が不細工なんか相手するか!!そして突っ込まれる突っ込まれるうるせーんだよ!!」
長野と吉野とモリクミが変な言い争いをしていた。
長野は吉野が僕にも長野にも性的な魅力を感じていないと理解したのだろう。
「お前、松永を好きにならんの?こげんイケメンなのに」
「そうよ!!長野くーんと松永くーんなんて二人並んでいる姿見るだけでもう、ハァハァ出来るのに!!」
「イケメン過ぎると逆に萌えない。少し疲れた感じのリーマンがいい」
「そんなもんなんか」
「そうだよ、ゲイはいろんな男の好みあるからね。松永君と長野君は万人に受けるタイプかもだけど、一部の僕のようなゲイからは全くもてないよ」
「おぉー!!」
初めて会った同類に教えられるところも多く、新しい知識を長野は吸収し、長野は吉野を受け入れていった。
あの時、モリクミとお富さんの提案を受けてよかったと思う。
二人は僕が数日間考え込んでいることに気付いて、場をセッティングして長野に何か言ったみたいだけど、その時吉野を巻き込んだ方がいい、いらないでモリクミ、お富さん二人で揉めて結局は今の結果がある。
もちろん、吉野をいらないと言っていたのはモリクミだが。
モリクミと吉野は性格が合わないらしい。
吉野はコンビニで買ったそばをすすりながら話す。
「滅多にないよ。ノンケだらけの高校でしかも一目ぼれ、初恋、三年間想い続けて現在付き合うことになってるなんて。しかも男同士」
「そうなん?」
「うん。ほんとうに低い確率だね。奇跡に近い。小説じゃないんだから」
「でもみんなはどうやって出会うん?」
「ネットや飲み屋とか、そういうの。やるだけの場所もあるのさ。この世界、外見から入るから長続きしないんだよね。中身を見ないでそのまま付き合おうになるからすぐ破綻する」
「そうなんか」
「だから僕は君たちがうらやましいよ」
吉野は浮かない顔をした。
「君たちは他のゲイと違う。見た目で人を判断したり、拒絶したりする生き物じゃないだろう。僕たちとは違うのさ。タイプじゃなけりゃ話もしないなんてことはないだろう」
ああ、ほんとうに信頼できる友達がいないんだろうな。
吉野の言うことが事実とするなら吉野は寂しいんだろう。
「吉野くん」
「なに?」
「僕の考えだけど」
「うん」
「友達って過去の共有をした人たちのことを言うと思うんだよね」
「うん?」
「同じ空間、時間を一緒に共有した数、想い出という言葉で言い換えてもいいかもね。それが多くなれば多くなるほど親密さがわくと思うんだ。友達ってそういう同じ時間、空間を一緒に過ごした人たちのことを言うんじゃないかな。過去の共有、想い出の共有」
「・・・・・・・・・」
吉野は考え込む。
「僕は今までタイプ以外の人とは話もしなかったからなあ。今じゃ連絡もくれない、連絡もしない」
「吉野くん、僕と今同じ空間でこうやって食事して話をしてる。こういうのが少しずつ増えていってる」
「うん」
「他のゲイの人たちがどうかは知らないし分からないよ。でも僕たちはもう友達ってことなんじゃないかな?僕はそう認識してるよ、吉野君のこと。これからもたくさん過去を共有していくと僕は思う。長野も僕も園芸部の人も他の人もそうだと思う」
「だといいな」
「うん。そうなるよ」
「そうか」
吉野は何か吹っ切れた表情をしたように感じた。
彼は気付いていない。
性的欲求と友情をごちゃ混ぜにして同類のゲイの人と向き合ってしまったから寂しくなったんだろう。男と女の友情が成り立つか、否か?の討論に近い。
19歳になろうとしている彼の人生経験とゲイという観点からすると荷が重いだろう。
性的欲求を相手に感じた時点で、もうそれは友情でもなく友達でもなくなると僕は思う。
実際僕が長野に対して踏んで来た過程に似ている。
僕は長野を大切な友人と思っていたが今では恋人だ。
これは成功例だと思う。
もし、この恋が成就していなかったら、お互い一緒にいるのが辛かっただろう。
好きな相手が他の人間を好きになるのを一番そばでずっと何も思わず見ていられる人間がどれだけいるだろう。
「君はほんとうに不思議な人間だなあ。だから僕は君と友達になりたかったのかなあ」
「僕みたいなのははふつーだよ。どこにでもいる」
「いや、全然ふつーじゃないよ。園芸部にいる時点でふつーじゃない」
そう言って吉野は笑った。
「そういう君と友達の僕もふつーじゃないんだろうな」
なんだか吉野が嬉しそうに見えた。
僕は答えず、サンドイッチを頬張った。ふつーとか異常とか知らんがな。
「こぉら!!吉野、あんたまた園芸部に無断で入りやがって!!あたしの松永くーんと食事するなんて一回地獄見て来いやゴルァアアアアア!!」
モリクミが園芸部の扉のところに、どこで買って来たのか招き猫の巨大な着ぐるみを着て立っていた。
口の部分に顔があって招き猫にモリクミが食われているような感じだ。怖かった。
「この人は全然ふつーじゃないよね」
そう言ってモリクミを冷たい目で見る吉野が印象的だった。
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