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宴の始まり、渡る世間は鬼ばかり
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嫌な夢だった。
子供の頃の夢を見て、そして起きた。
時計を見るとAM5時。
隣には口を開けて長野が間抜け顔で寝ている。
今日は文化祭当日で屋台を組んだり準備をしなければいけない。
長野を起こさないようにそっとベッドから出る。
裸なので下着とシャツを着て、洗面所で顔を洗う。
鏡を見ると今日もそっくりな僕の顔がある。お母さんに生き写しだ。
一人じゃない、と感じられた僕の顔。
僕自身で僕を慰めて生きていける。
長野に会うまでは、だったけど。
長野には以前、お父さん似と咄嗟(とっさ)に嘘をついた。
長野には小さな嘘を重ねてる。
誰にだって触れられたくない部分がある。
洗面所を出る。
冷蔵庫の中から朝食の材料を出して、出来るだけ音を出さないように廊下の扉を閉めてキッチンと長野の寝ている部屋を隔てる。
いつもの日常。
小学生から料理をしていたから大抵の物は作れる。
昔と今と違うのは。
一人分じゃなくて二人分を作る幸せを覚えたことだ。
生きて行く為に作っていた料理が長野の「おいしい」の言葉をもらう喜びの為に作っている。
だとしたら、今までのことも無駄じゃなかったように感じる。
「松永、早いね」
廊下の扉を開けて長野が顔を出す。
「ごめん、起こした?」
「いや。今日早く行くんやろ」
「うん。ご飯もうすぐで出来るから待ってて」
「おぅ」
長野が軽く抱きしめて顔を寄せる。
料理を作って長野に運んでもらう。
誰かと話をしながら食べることの楽しさも覚えた。
長野とバスに揺られて大学に向かう。
二人掛けの席で長野と一緒に座る。
長野の肩と腕が僕の体にあたっている。
人の体温の温かさも知った。
全部長野が教えてくれた。
「長野ありがとね」
「おぅ」
長野、文化祭を手伝うことに対してじゃないよ。
今までのこと、そのありがとうだよ。
大学に到着して園芸部の部室に入る。
昨日運び込んだダンボールのラーメンや調理器具を台車に乗せ、園芸部の屋台の場所に運ぶ。
現地では児玉とモリクミが屋台を組み立てていた。
「あーん、長野くーん、松永くーんおはよー。はやーい」
「モリクミたちも早いやん」
「長野くーんたちが来る前にやっちゃおうかしらとねー。先輩だしー、出来るだけ終わらせておこうと思ってー」
ああ、そう言えばこの人たち先輩だった。
「長野くーん、松永くーん。今回屋台用の特別衣装と、企画サークルの討論会の特別衣装もあるし、台本もあるから打ち合わせとかやること多いのよー。二人ともよろしくねー」
やはり。
「俺たちも出るの?」
「あの、僕たちも何かまた着るんですか?」
嫌な予感。
「やーん、討論会には長野くーんと松永くーんも出るのよー。児玉はその間屋台でラーメン売っててもらうけどー。ちゃんと素敵な衣装用意してるわー。テニスサークルのやつら叩きのめしましょうね!!私が台本を考えてるからその打ち合わせを後でしましょー。あと服は私がまたコーディネートするからー」
台本ってなんだ・・・僕たちも巻き込むのか。
屋台が完成し、プロパンガスや材料のチェックをする。
「またスーパーアルプスの野菜か。。。。。」
園芸部なのに園芸部で育てたものは何一つなく、トッピングの野菜もチャーシューもスーパーアルプスで購入したものだ。群馬産と長野産、千葉産と書いてある野菜たち。。。。
園芸部の鍋もそうだがスーパーアルプスは園芸部に貢献しまくっている。
周囲の屋台も完成し始めている。
「テニスサークル、おでん種1つ200円!!どんだけ強欲なのよあいつら!!焼きそば400円とか!!てめぇーらの手も洗わないで作った麺だけのソース煮みたいな焼きそばに400円払って誰が買うのよ!!潰してやるわ。完膚無きまでに叩きのめすわ!!」
モリクミは市場調査と称し、他サークルの屋台を覗いて来たようだ。
「僕たちいくらでラーメン売るんです?」
「あーん、松永くーん。値段はあってないようなものなのよー。人によっては無料、人によっては1000円かしらー」
「おい。その基準はなんなんだ?」
「あーん、長野くーん。あたしが好きか嫌いかで値段変わるからよろしくねー」
おい。
僕はトッピングの素材の調理をし、長野は屋台の組み立てや出て来たゴミを片づける。
児玉は備品を所定の位置に配し、モリクミは、それが台本なのだろう、冊子を見ながらぶつぶつ何か言っている。
モリクミの真剣な横顔を見ながら、行き当たりばったりで叩きのめすわけではないのだな、とモリクミの綿密な計画に巻き込まれることが怖ろしかった。
どんな格好を僕と長野はさせられるんだろう。。。。。。
準備は8時30分には完了した。
まだ文化祭には人の姿はない。
準備していた学生が他の屋台の様子や会場内の様子を見ている位だ。昼頃にはご飯時も重なって人出があるだろう。
「モリクミー、来たよー」
鎌田が園芸部の屋台に顔を出した。
「鎌田、じゃあよろしくよ!!」
「長野君、松永君じゃあこっちに来てー」
「え?」
「おぅ?」
鎌田に演劇部がよく使用している舞台がある倉庫に連れて行かれる。
「じゃあ、これが台本ねー」
「台本?」
長野が不思議そうに聞いた
「そうそう、それぞれセリフがあるからモリクミとの掛け合いの演技指導と衣装の着つけを頼まれてるからー」
「ええっ!?」
僕たちそこまでしなきゃいけないことなのか!?モリクミ・・・・。
「今回の為に演劇部の衣装担当、毎日徹夜で作ってたんだよー。モリクミからお金もらってたからっていうのもあるけれど。間に合わなかったらモリクミにぶちのめされるの分かってたからねー」
鎌田の背後にやつれ気味の女の子3人が立っていた。
「衣装合わせします・・・」
「おぅ・・・・・だ・大丈夫か?」
「2日寝てません・・・・・その前も毎日3時間位しか」
「ご苦労さまです・・・・あとでラーメン食べに来てください」
長野と僕はその女の子たちを見てモリクミの怖ろしさを再認識した。
女の子達に衣装を着させられ、女の子達はその場で微調整で針を刺したり、衣装に糸を通して行く。
「完成です」
「あ・ありがとうございます。ほんとうに大大丈夫ですか?」
「死にそうでした」
衣装作って死にそうってどんな作業を強いられていたんだ。。。。。
その後台本のセリフ合わせと鎌田の演技指導が入った。
鎌田がモリクミの役をして三人で合わせたが、鎌田のふざけた姿しか見ていない僕たちは鎌田の厳しい指導ぶりと演技に唖然とするばかりだった。
「長野君!!そうじゃない!!○○ちゃーん氷持って来て」
さっきの衣装の子が冷蔵庫から氷を持って来る。
鎌田がそれを受け取ると、いきなり長野の背中にそれを投入した。
「つ・冷てぇ!!」
「そう!!それ!!驚いたりした時の反応それでしょ!?」
う・うわあ・・・・・スパルタ指導だ。。。。
その後、ひどい台本の内容と演技指導、屋台用、と言って渡された衣装にチェンジをして園芸部の屋台に戻る。
「おい。。。。。」
「うん・・・・・・」
園芸部に戻りながら長野と僕はこれから起こるひどい出来事の当事者になるんだろうな、とズーンと気持ちが落ちていた。
今戻っている時の衣装もちょっと。。。。。これ何か意図があるんだろうか。
園芸部の屋台に戻る途中音楽が聞こえて来た。園芸部の方からだ。
園芸部に人だかりが出来ている。
「これは・・・・・」
「どうしたの長野?」
「渡る世間は鬼ばかりだ」
「え?」
僕はテレビを見ないので分からなかったがドラマの渡る世間は鬼ばかりのテーマソングが流れているらしい。
「うわああああ!!」
「ど・どうしたの、長野!?」
「この衣装は!?」
「な・何!?」
「渡る世間は鬼ばかりの岡倉大吉の衣装じゃねーかっ!!」
よく分からないがそういうことらしい。
園芸部の屋台が見えた。園芸部の看板と一緒に
「幸楽」
という看板が出ていた。
当時はよく分からなかったが相当大ヒットしているドラマだったらしい。
園芸部の周囲の学生が大爆笑しているのが聞こえる。
人だかりでそこからはモリクミと児玉がどうなっているのかはよく見えなかったけど。
モリクミ、何をしているんだ。。。。
僕と長野はその渡る世間は鬼ばかりのテーマソングを聴きながら外階段に隠れていた。
そしてすっかり忘れていたのだ。
戸田と奈々子が来ることを。これも後に悲劇を起こす。
(そのドラマ今の人分かるのかなあ?嘘は書けないのでそうだったとしか言いようがないので参考までに当時使われた音源ではないですけど下記URLのような音楽です)
http://www.youtube.com/watch?v=ERyNV9j0bI8
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