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焦燥
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語学クラスが終わって吉野と園芸部でご飯を食べていた。
「長野すごく酔っぱらってたけど大丈夫だった?」
「うん」
明け方長野はベロベロに酔っぱらって僕の部屋に帰って来た。
夏位から合い鍵はお互いに渡してあった。
長野は明け方帰宅すると、僕が寝ているベッドの隣に倒れこんですぐ寝息をたてた。
鍵の開く音と靴を脱ぐ音を目を閉じたまま聞いて、長野が僕の隣にドカッと服のまま転がって眠りにつくのを背中で感じていた。
今日は長野は午前中の授業もなかったから、今も家で寝ているかもしれない。
「終電で帰りなよ、とは言ったんだよ」
吉野が申し訳なさそうに言う。
「いいよ。長野がそうしたかったんやろうけん」
「松永君、怒らんの?」
「なんで?」
「いや、なんでって・・・・」
「吉野君は何も悪いことはしてないよ。長野が朝まで飲みたかった、楽しかったということなんやろう?」
「そうだけど」
「長野がそうしたいんだからそうさせてあげたいだけ」
「松永君甘やかしすぎだよ。優しいなあ」
違うよ。ただ長野の全てを肯定したいだけ。
「でもさ、長野いつも飲み屋で松永君のことばかりしゃべってるよ。長野は彼氏がいるってみんな分かってるから安心していいよ。飲みに出る時はいつも僕が誘うか長野から誘われて二人で行動してるし、変な虫つかないようにしてるから」
「そう」
長野は学校が終わるとバイトかサークルで遅くに帰ることも増えた。
次の日が休みか授業がない日は二丁目に飲みに出るようにもなった。
今日みたいに明け方に帰ることも多くなっていた。
「松永も行かん?」
と行く前に必ず誘われたが僕は拒否をしていた。
たまに、強く来るように言われた時は、吉野と長野と一緒に出ることもあったが苦手だった。
飲み屋に入る時の視線の洗礼も、お店の人間の語る言葉も。
投げかけられるまとわりつくような視線も態度も全てに慣れなかった。
「そう言えば松永君来ないのー?っていつも聞かれるよ。多分僕たちが行くお店の店子、松永君のことタイプなんだろうね。長野が彼氏って分かってても会いたいみたいだよー」
ああ、初めて行った時からずっとしゃべりかけてきた飲み屋のスタッフの人。
「長野以外興味ないから」
「そうだよね。長野とは全く違うタイプだしねー」
そうじゃない。長野だけしか見ていない。他はどうでもいい。
「もうすぐクリスマスだけど長野と松永君は何するの?」
「分からない」
「分からない?」
「長野の予定がどうなっているのか分からない」
「初めてのクリスマスでしょ?予定決めてないの?」
「うん。長野のバイト先忙しいだろうし、カップルもたくさん来るかもしれないから。バイトなんじゃないかな」
「松永君、それでいいの?」
「うん。長野が判断して決めてくれればいい」
僕はバイトもしていないし、学校が終われば図書館で本を読んだり勉強をして閉館時間ぎりぎりまで学校で過ごすことが増えていた。
テレビも見ない、音楽もあまり聞かない。
PCはつないでいたがレポートと調べ物位でしか活用していなかった。
音の無い自分の部屋で一人でいたくなかった。
昔の僕だったら平気だったのに、長野の騒がしい声が聞こえなくなった部屋でぽつんと一人でいたくなかった。
以前なら待っている長野の姿があった。待っているからすぐに図書館も切り上げるようにしていた。
それが今はない。
長野は疲れて帰って来てすぐ眠るか、酔っぱらって眠るかのどちらかだ。
「長野、大学にはちゃんと行ってる?」
「おぅ、ちゃんと行きよるよ。サークルもバイトもちゃんとしよる」
「そう。頑張ってるね」
「おぅ」
長野は最近、車の免許の為に教習所にも通い出していたから、僕と長野が顔を合わすのは朝か深夜か、日曜日も教習所かバイトが入るようになって今までのように二人で一日過ごすことがなくなっていた。
僕が長野に依存し過ぎている、というのは理解していた。
以前は長野が僕に執着していたのを修正しようとしていた時期もあったのに。
今は僕が長野と一緒にいる時間を欲している。
長野のいない時間、何かしなきゃと思うけど図書館以外の何も思い浮かばなかった。後は園芸部ということだけ。それしか思いつかなかった。
僕は伽藍堂(がらんどう)だ。
何もない。長野がまぶしい。
一人の時間が増えるとどうしても昔のことばかり思い出した。
「松永君?」
「ごめん、考え事してた」
「松永君も今度一緒に行こうよー」
「そうだね」
行く気はなかったけど、相槌(あいづち)だけしておいた。
その日も授業が終わって、図書館に行ってその後、園芸部の部室とかに寄って最終のバスに揺られて疲れて家に帰った。
何かをしていないと考え事や昔のことを思い出すから疲れている体を動かして部屋を掃除していた。
その時、奈々子からメールがあった。
《松永君元気?今度戸田と長野君サッカーの試合あるけど来るんでしょー?一緒に行こうー》
僕はそれを長野から聞いていない。知らなかった。
今までだったら長野はその日一日の出来事や、先のことも熱くしゃべってくれた。
返事を打つのをためらう。
どう返事すればいいんだろう。
知らなかった、そう伝えた後どう続ければいいんだろう。
長野がいいって言うなら行こうかな、とメールを打ったところでそのメールを送信せずに消した。
また長野に依存している。
返事は打たなかった。
その夜、長野はサークルの飲み会だったのだろう、酔っ払って帰って来た。
服を脱いで、僕の隣でイビキをかき始めた。
僕は長野が寝ていると分かっていて懇願した。
前にも何度かあった。
一回だけ長野が夢現(ゆめうつつ)で返事をしてくれたことがある。
長野は覚えていないだろうけど、その言葉を信じる力が今弱まっていた。
「お願い。長野は僕を捨てんで」
声をもらさないように泣いた。
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