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珍しい人間から俺の携帯に電話があった。
「もしもし」
「お富さんどうしたと?珍しい」
「松永君は?部室に行っても誰もいない」
「松永?実家に帰っとるよ」
「いつ?」
「4日前位から」
「どうして?」
「なんか用事があるって」
「用事?長野君は聞いていないの?」
メールで用事があるから帰るとしか聞いていないと伝える。
「メール?」
「忙しかったから」
言い訳がましく俺が言う。
別にメールでやり取りするのは普通だろう。
お富さんの前だとそう言えなかった。
お富さんから俺のことを非難する空気を感じていた。
「いつ帰るの?松永君の実家の住所知ってる?」
「なんで?」
「行って来る」
「おぅ?」
「で、いつ帰るの?住所知ってる?」
「ああ、探せば賃貸の契約書に書いてあるのがあると思うけど。いつ帰るだったかな。えーと1週間位。なんで?」
「メールで住所を送って」
そのまま電話が切れた。
なんなんだよ、と思ったがお富さんの声がいつも以上に静かなことが気になった。
松永の部屋の賃貸契約書の保証人欄の実家の住所をメールで送った。
メールを送り返した後、お富さんからメールが届いた。
「ありがとう」
たった一言で、その理由も書いていなかった。
なんなんだ!?俺がなんか悪いことしてるとでも言うのか!!
実際は浮気も継続中だがそれは誰にもばれていないし、松永も普段通りだ。
なんなんだよ、あの電話!!
その時、ばれていないと思いつつも、負い目のある身だったから余計にイラッとしていた。
逆ギレのようなものだ。
でも、松永、実家になんで帰ったのかなあ。
いつも通りだから浮気が原因ではないのは確かだ。
いつもの松永なら落ち込んで泣いたりするだろう。
でも普段通りだった。
考えてもしょうがない。帰って来てから、なんしとったのか聞いてみよう。
あと、3日もすれば帰って来る。
メールでも送っておこう。
「早く帰って来ーいっ!!松永いないと寂しいぞー!!」
そうメールを送る。
「うん。僕も寂しい」
と返事が返って来た。
ほら、いつも通りじゃないか。いつもの松永のメールだ。
気にしないようにして一人、松永の部屋に合鍵を使って入った。
部屋を見て違和感を覚える。
部屋の配置変わったんだろうか。
最近部屋に入っても電気が消された松永のベッドに滑り込むように寝て、朝慌ただしく出て行くだけだから気付かなかっただけかもしれないが、物が少なくなっている気がする。
クローゼットを開けてみた。
おぅ。松永衣替えしたのか。服が随分片付けられてるなあ。松永らしい。
テーブルの上に松永の手紙が置いてあった。
「長野へ。僕が帰ったら携帯電話一緒に見に行かん?戸田君と奈々子ちゃんと同じ会社の携帯にしない?メールとか電話代安くなるし。僕も変えるから。一緒に見に行こう」
顔がほころんだ。
そうだな。松永。
一緒に携帯買いに行こう。
お揃いの携帯を買おう。
最初に登録するのは松永の電話番号とメアドだ。
携帯の0番はお前だ。
俺にとっての始まりだ。
その時、俺は気付いていない。
結局松永の番号は登録されずに二人が終わってしまうことも。
そして松永の周囲と人間に起きていたことを知る手掛かりも失われることも。
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