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長野と別れて夕方、サークル連合に赴く。
「これ約束の原本です、ありがとうございました」
睨むように乱暴に委員長に受け取られる。
そのまま部屋を後にした。
結局お富さんはうまく引っかからなかった。
ただ、まだばれてなさそうだ。
留学のことも長野のことも。
急ごう。
長野に聞いてコンビニに行く途中、実家に電話をしたが留守だった。
ナンバーディスプレイで僕と分かって出なかっただけかもだけど。
お富さんが実家に行くことはないと思うけど、分からない。
お富さんは2泊3日、戻って来るのは今日から3日後。長野は明後日から3泊4日。
僕がいる間に鉢合わせはない。
次は。
モリクミと児玉。
園芸部の畑に行く。
畑にはここ最近真面目に僕が育てた野菜が出来ていた。
白菜やホウレンソウ、カブなどが出来ていた。
それを持って田中さんの家に向かう。
「いつもお世話になっています」
「園芸部の畑で採れたものだね?」
「はい、いつものお礼です。どうぞ」
野菜を渡し、座敷に呼ばれる。
お茶を頂きながら話をした。
「園芸部は続きそう?」
「今年は1年生が入りませんでした」
「そうか」
「竹林先輩(モリクミ)も児玉先輩も来年は4年生で実質引退です。田中さんにお願いがあります」
「田中さんから借りている土地でイベントをしたいんですがいいですか?」
「何をするんだね?」
「学生の方に野菜を育てているところや、窯を作って食事を作ったりですね。園芸部の活動を知ってもらおうと」
「ああ、いいよ。手伝うかい?」
「お願いします。餅つきとかの道具や窯を作る道具お借りしてもいいですか?」
「倉から自由に持って行きなさい」
「はい。あと、田中さんから先輩たちに提案してもらえませんか?僕から言っても真面目にしないんで」
「分かった」
田中さんは笑って了承した。
田中さんから言われればせざるを得ないだろう。
これで鎌田、モリクミ、児玉、お富さん、吉野が分散される。
それぞれが顔を合わせられない状況、また余計なことを考えられない状況を作り上げる。
それぞれの因子である人物が不規則ながらも、どう動くかだけど忙しさは他への集中をそらす。
長野と僕のことにかまっている余裕はなくなるだろう。
児玉とモリクミには必要なかったかもしれない。もう僕はいなくなるし。
でも、最後に園芸部を裏切って出て行くことに罪悪感もあった。
誰か新しい人が入るきっかけになってくれれば。
園芸部が続いてくれれば。
田中さんに別れを告げ、大学に戻る。
須田教授の部屋に向かった。
「松永君、お帰りなさい」
「ただいまです。須田教授は?」
「会議で出張ね」
「そうですか。佐伯さんいろいろありがとうございました」
「いえいえ。頑張って来てね」
「はい。あの」
「何?」
「渡航を早めたいと思います。語学学校の件もありがとうございました。」
「え?」
「あと、僕が留学するのをまだ誰も知りません。佐伯さんと須田教授だけです」
「ええ?」
「いずれはばれるでしょうが、佐伯さんと須田教授のところにも聞きに来るでしょう。僕のいる場所を伝えないでください」
「どうして?」
「それは言いたくありません」
佐伯が考え込む。
「分かった。でもそれでいいの?みんなと別れるのに。須田教授には松永君の要求や希望を聞いてあげてくれ、とは言われてるけど」
「いずれ僕が戻った時には全員いません」
「そうだけど」
「僕の為と思って、言わないと約束してくれませんか?」
「分かったわ」
日本を発つ日にちを伝える。
その日にちより早く、長野のいない間に部屋は引き払うが、日本にはいると伝えた。
最後に長野と行った場所をまわりたかった。
想い出を強く刻みたい。
急な日にちに驚いていたが須田教授にもよろしくお伝え下さいと述べた。
落ち着いたら連絡先とメールアドレス送ります、と。
携帯は解約する予定だ。
佐伯と須田教授がしゃべってしまうかどうかは分からない。
不確定だがこればかりは強制は出来ない。
佐伯と須田教授の判断に任せようと思う。
佐伯に別れを告げ、大学を出て、長野のバイト先に向かう。
「あれ?松永君?」
「こんばんは」
「長野今日休みだよ?」
「知ってます。家にいますから。バイト終わったら奈々子ちゃんと戸田君に少し話あるんですがいいですか?」
「え?ああ、うん。どうしたの?」
「たいした用事ではないです。終わるまでそのあたりぶらぶらしているので」
「分かった。終わったら電話する」
「長野には内緒です」
カウンターの戸田が携帯を取り出したのを見て、牽制した。
長野にメールを打とうとしていたのかもしれない。
「ああ・・・・」
そう返事をして戸田は携帯をポケットにしまった。
バイトの終わった戸田と奈々子が待ち合わせのファミレスに来た。
「どうしたの?」
奈々子が席について声をかけてくる。
「二人に頼みごとが」
「何?」
「僕いなくなります、長野が大学に来なくなったり様子がおかしかったら二人で長野を支えてあげてもらえませんか?」
「え?いなくなる?」
戸田が驚く。
「はい、留学します。長野には言っていません。そして僕と長野の関係も終わりつつあります」
「どういうこと!!」
奈々子が立ち上がる。戸田が奈々子を制した。
思った以上に感情を表に出す人だな。
この二人には僕のいなくなった後、万が一長野が罪悪感を持った場合、普通に生活してもらう為の役割をしてもらう。
だから正直に話をした。
「長野君、松永君のことをもう好きじゃないってこと?他に好きな人出来たってこと?」
奈々子が早口で聞く。
「松永君。長野本人には聞いたの?」
戸田が諭すように僕に言う。
「聞いてはいません。ただ、もう止められません。留学するのは決定事項です。もう遅すぎます。それに僕が長野から離れたいんです」
「うん、松永君がそう決めたなら」
奈々子が僕を見ながら言う。
「松永君は後悔しないの?」
「後悔しない」
「おい、奈々子いいのかよ!?」
「松永君が正直に話をしてくれて、長野君から離れたいって言うんなら私は長野君じゃなくて松永君を信じる」
「ありがとう」
「でも、他に好きな人って誰!?」
「さぁ。長野、僕に悪いと思っているのか別れようと言ってくれないので」
「それひどくない!?」
奈々子が怒っている。
「うーん。でも長野守ってあげてくれませんか?もしかしたら園芸部とかお富さんとか鎌田先輩、吉野が長野を責める時が来るかもしれないんですね。その時二人、長野の味方でいて欲しいです。ばれているので」
「誰かに長野君の浮気がばれてるの?」
「はい。ばれています。全員に行き渡ってはいませんがいずれ長野の元に行くでしょうね。その時二人には長野をかばって欲しいです。僕はそれを望んでない」
戸田と奈々子は黙りこんで僕を見ていた。
「松永君はそれでいいの?長野君に私たちから話そうか?」
「それを求めていません。僕がもう別れたいんです」
そう、もし今回の浮気のせいで目が視えなくなったと勘違いされたり、今後目が視えなくなるかもしれない自分と一緒にいると長野の人生に迷惑をかける。
いつかこうなると気付いてた。
早く別れなくちゃいけなかった。
一緒にいるのが幸せすぎてそれに甘えてしまった。
いつかは一人で生きていかないといけないと自分に言い聞かせて、そのつもりだったのに二人でいる将来を夢見てしまった。
でも今回の長野の浮気で目が覚めた。
長野に僕は相応しくない。
長野にはもっといいやつがおる。
僕から離れないかん。この目の状況も誰にも知られちゃいかん。
特に長野には。
「分かった。でも、長野がもし松永君を好きで、いなくなった後苦しんだらどうするんだい?」
戸田が問いかける。
「それはないと思います。もしあったとしても時間が解決します」
僕の固い意志を汲んで二人はもう何も言わなかった。
この僕との会話と内容は長野には伏せて下さいと念を押し二人と別れた。
これで全員終わった。
後は。長野が旅行に行ったらそのまま、部屋を引き渡して去るだけだ。
1か月と決めていたが予定が狂った。
随分早くに出ることになった。
お富さんの予想不可能な行動を警戒し過ぎかもしれないけれど
これでいい。
長野に漫画喫茶からフリーメールを送る。
「今日用事が長引いて帰れなくなったから漫画喫茶に泊まる。携帯充電切れちゃって繋がらないから」
長野から
「車で迎えに行こうか?」
とメールが来た。
「ううん、いい。一人で大丈夫」
「そうか。気をつけてな」
うん。
行って来る。
明日は長野は大学に行ってサークルの日だ。
その次の日が旅行。
誰と行くかは知らなくてもいい。
もう少し長野のそばにいたかった。
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