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松永からのプレゼント
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「留学前に現地の語学学校に通うように手配されているからあと数日で日本を離れてるでしょうね。離れる日時は私も聞いてない。須田教授だけかもしれない」
「佐伯さん、留学先、ホームステイ先も教えてくれないの?」
「それは・・・・やっぱり言えないわ。須田教授も何か考えがあるんだろうし」
「だけど、それ位教えてくれてもいいんじゃない?」
「教えてどうするの?会いに行くの?それ、松永君が望んでいるの?」
「それは分からないわ。でも嫌なの」
「須田教授の考えを聞くまでは言うわけにはいかないわ。これも仕事なの」
全員が園芸部の部室に集まっていた。
お富さんと佐伯が話をしている間、俺は他のやつらから
「松永君の居そうな心当たりのある場所は?」
などと質問をされていたが、頭を横に振る位しか出来ない。
ショックで何も考えられなかった。
「長野君」
お富さんから声をかけられる。
「須田教授に拒否をされたということは、もう松永君が日本から出る前に会うことも連絡を取ることも不可能だわ。教授が会議から帰って来る頃には松永君は日本を発っているんでしょう、佐伯さん」
「ええ」
「空港で待ち伏せとかは?」
「モリクミ、それは現実的ではないわ。ずっと誰かが一日中、何日も空港にいなきゃいけないのよ?」
「そうだけど!!このままだと会わずに行っちゃうじゃなーい!!」
「そうよ。だから長野君」
お富さんが俺だけに話しかける。
「君は松永君が帰って来るのを待てる?」
全員が俺を見る。
「もう、止めようがない。居場所も分からない、出発の日時も分からない。学生部に留学先を聞いたけど個人情報だとかで、交換留学の提携をしている大学のリストはくれたけど特定は拒否をされた。何故留学先を知りたがるのか、と。須田教授の指示かもしれないけど。私たちにはもう手が出せない。須田教授と佐伯さんが黙秘している間は何も出来ないのよ。鎌田」
「うん」
「鎌田は演劇部の舞台がいきなり始まることになったわね」
「うん。原因は松永君だろうね。学生部の許可証の申請は松永君の名前でされてた」
「気付くのが遅かった。サークル連合もこの前の件でメンバーが一新されて立て直しの時期なのに。無茶な他の大学との合同イベントを打って出た時点でおかしいと思わないといけなかった。今回の写真部の合同イベントも松永君が絡んでいるかも。私たちも松永君にしてやられたわ」
「僕が今付き合っている彼氏のセッティングしてくれた人が松永君と連絡が取れない、食事する約束したのに、って怒ってた。僕の件も松永君関わってたんだね・・・・」
「松永君、騙す割には全員に置き土産をしてくれたようなものよねー」
モリクミがぽつりと言う。
「そうね。全員にプレゼントを残して行っちゃったわ。お返しも出来ない。長野君、君は松永君が帰って来るのを待てる?佐伯さんの話では1年、もしくは2年位の予定ではないか、とのことだけど。その頃には私たちはいないかもしれない」
「3年待っとった。松永のこと待つ」
高校時代は3年間松永の姿ばかりを追いかけていた。
たった1年、たった2年だ。
そうは思っても寂しさと後悔で苦しかった。
「応援はするけど、長野君のして来たことを許すわけじゃないから。でも私たちも長野君だけを責められないっていうね」
園芸部とお富さん、鎌田、吉野は打ちひしがれた俺を見る。
「今日のところは解散しましょう。ここにいても仕方ないわ」
お富さんが声をかけるが誰一人立ち上がらなかった。
それぞれ松永との記憶を思い浮かべていたんだと思う。
「戸田君、奈々子ちゃんは長野君に付き合ってあげて。私たちは帰るわ。松永君のくれたプレゼントを無駄にするわけにはいかない。明日、長野君。写真部の合同個展に来て」
そう言うと園芸部とお富さん、鎌田、吉野は帰って行った。
俺と戸田と奈々子は俺の部屋に戻る。
隣の松永の部屋は鍵がかかっていた。もらっていた合い鍵で開けるとそこには何もなかった。
「長野、部屋行こう」
戸田に声をかけられて、俺の汚い部屋に戻る。
どこにも松永の痕跡もない。服が散らばっていてどこにも松永の香りもない。
涙がボロボロこぼれてしょうがなかった。
次の日。
戸田と奈々子は帰って行った。
大学をその日、俺は休んでお富さんの個展を見に行く。
受付にお富さんがいた。
「来たわね。これチケット。ごめん、受付少しだけお願い」
隣の受付の学生にそう言うと、お富さんは俺を誘って個展の場所を案内する。
連れて行かれたところには俺と松永の写真があった。
「松永君にも見てもらいたかったな」
俺と松永が笑顔で写っている写真が大きく引き伸ばされて飾ってあった。
「私はね、長野君。幸せな二人の一瞬を切り取るだけの写真は取るつもりはないのよ」
はぁーと溜息をお富さんはつく。
手に持っていたアルバムを俺に渡した。
そのアルバムを見るように促(うなが)される。
全部俺と松永の二人の写真だった。
「私は写る人たちの幸せを願って写真を撮るわ。永遠に続くような幸せを願って!!私はこんな結末は嫌なの!!」
冷静に話をしていたお富さんが急に怒鳴った。
すぐにまたお富さんは冷静に戻る。
「松永君は君とは違って翳(かげ)りがあった。それが何かは分からなかったけどその翳りを拭ってあげたい。それを私の写真が拭えたらいいと思った。でも結局出来なかった。これ、松永君が戻って来たら渡してあげて。私の写真はただの想い出なんかで終わるような写真じゃない!!そんなつもりで撮影してない!!もし長野君が松永君を待たないならそのアルバム捨てていいから」
「必ず渡す」
そう言ってアルバムを大事に抱えた。
お富さんにはお富さんのこだわりがある。
それさえも俺は裏切ったんだろう。
俺はたくさんの人を傷つけている。
「園芸部のイベントが畑であってるそうよ。行ってらっしゃい」
そこでお富さんと別れて園芸部の畑に向かう。
園芸部の畑に行くダラダラとした坂道を登りながら畑に松永を迎えに行った時のことを思い出していた。
「僕が悪い」
と泣いていた松永。
お前はきっと、母親の目を悪くしたことをずっと懺悔して生きて来たんだろう?
母親が死んだことも父親に言われたんだろう?
お富さんが松永の祖母から聞いた話では母親の葬式の日に松永は父親に責められて泣いていたらしい。
気付いてあげられなかった。
園芸部の畑にはモリクミと児玉、吉野がいた。
「長野くーん、来たわね」
初めてモリクミに会った時に着ていた牛タイツをモリクミは着ていた。
当時に比べると随分パッツンパッツンで、モリクミが当時よりもさらに体が大きくなっているのを物語っていた。
「長野ー。こっちー」
吉野が呼ぶ。
「こちらは僕の彼氏。えーと、僕と○○さんのキューピッドをしてくれた人の彼氏」
その初めて会う男が「どうも」と頭を下げる。
俺もつられて頭を下げる。
俺たちよりも十歳位上の人間でイケメンの部類だろう。
良かったな、吉野。
松永、吉野の為にも動いたんやね。お前ほんと優しい。
本当は二丁目なんて行きたくなかったし、辛かっただろうに。
「長野君、この畑の野菜、全部松永君一人で育ててたんだよ」
児玉が言う。
児玉は畑から野菜を採り、近くの蛇口で洗うとそれを包丁で切って鍋に投入していた。
たくさんの学生が鍋の無料配布を受け、モリクミは牛タイツ姿で
「どりゃぁああああ!!」
と餅付きをしていた。
田中さんが寄って来る。
「長野君だったね?よく一人で松永君育てたねえ」
「はい」
「松永君は?」
答えられなかった。
「松永君にも見せたいねえ。こんなにこの畑に人がたくさんいて笑顔でいる光景見せてあげたいねえ。用事か何かで来れないのかねえ?」
「あーん、田中さーん!!窯の方のピザ見てくださーい!!」
モリクミが助け舟を出してくれる。
「吉野!!と吉野に突っ込む彼氏さん!!餅つきの方お願い!!」
「モリクミーぃぃいい!!!!」
モリクミは吉野と彼氏に餅つきを任せて俺の方に寄って来る。
「長野君。長野君は園芸部の次期部長を失わせたのよ。分かる?」
「おぅ。分かってる。みんなごめん」
「こんなに人が集まって楽しんでる。全部松永君がくれたの。全部松永君が動かしたのよ。長野君と松永君二人じゃなきゃ、あたし嫌なのー!!二人じゃないと嫌なのよー!!」
「分かってる」
「私たちは大学にいないかもしれないけど、戻ってきたら必ず連絡して。今度は松永君逃がさないようにして!!」
「分かった」
モリクミが俺の胸に拳を軽くあてる。
モリクミ手でかいな。
「鍋とピザ食べてって。あと、演劇部の稽古見に行くといいわ。鎌田が次の劇の舞台監督も演出もしているらしいから」
「おぅ」
この畑どうなるんだ。
松永を失って園芸部ももう終わるのかもしれない。
松永が帰って来ても、戻る場所があるように今度は俺がこの畑と園芸部を守っていようと思う。
モリクミと児玉が卒業しても俺が部員で残っていよう。
松永の帰る場所を守ろう。
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