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愛す
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触れたくないけど、抱きしめたいSS 愛す
夏といえば、海だキャンプだかき氷に流しそうめんだ。
指折り数えるお前は、手一杯になって頭を悩ませているけれど、
そんなもの、これから二人で長い将来を一緒に過ごしていくんだから、
一つずつやっていけばいいんだよ。
…なんて、意地悪なオレはそんな簡単な答えをお前に教えてなんかやらない。
七月下旬。正午前。
電柱にとまったセミが鳴き、道路の数メートル先には陽炎が揺蕩い、太陽がこれでもかと輝く。そんな猛暑の外を顎から汗をだらだら流しつつ耐え抜き、青年…姫宮壱理は、同居している男のマンションの玄関扉を開けた。
「クソばかあっちぃぃぃ~~~ッ」
ちょっと重い玄関扉を開けた途端、ふわりの黒い短髪を靡かせるのは、クーラーのガンガンきいた室内の優雅過ぎて快適な涼風だ。そのまま雪崩れ込むように室内に倒れこむ…はずが。がっしりと、大きな体が壱理を受け止めた。
「…見るからに頭悪そうな感想だな。」
肩まで伸びたぼさぼさの黒髪を項辺りで緩く一つに括っている。三十前後の男は、わけあって同居人の彼をそう評した。
「さ、実平さんっ。」
壱理は慌てて、気を付けと号令をかけられたかの如く直立した。…この部屋の主は、彼、王子谷実平(オウジヤ サネヒラ)だ。逆らえない。…それに。
「ごめ…っ、俺、汗だくなのに何も考えずに実平さんの方に倒れこんじゃって。手ェ、ベタベタしてない!?」
気にする壱理の片腕を掴み、相手はぐいと強く引っ張った。…壱理は深く考える暇もなく、再び実平の腕の中へと舞い戻ってしまう。
「さ、実平さ…??」
目をパチクリする青年の肩口に顔を埋め、実平は恍惚と呟く。
「…オレはどちらかといえば、匂いが濃い方が好きだが??」
家主の感想に、壱理は顔を真っ赤にして叫ぶ。
「寄るな、ヘンタイッ‼」
じりじりと狭い玄関で後退り、相手から数メートル距離をとった地点で、壱理はハッと何か思い出したらしい。
「実平さん、これ‼」
壱理が満面の笑みで頬の高さまで掲げたのは、コンビニで購入した物が入っているらしきガサガサいう白いビニール袋だった。
「近くのコンビニでアイス買ってきたんだ‼仕事、メドがついた??…休めるなら、一緒にこのアイス食べようよ‼あ…っ、でも俺流石にシャワー浴びたいから、いったんアイス冷蔵庫になおさなきゃ…。」
壱理がくるくる頭を動かしているうちに、音もなくスッと近づいてきた実平は瞬く間に少し屈むと、ぺろりと相手の首筋を舌で舐め上げた。
「っひ…‼」
無防備だった壱理の声ににこっと微笑みを浮かべ、家主は低く言葉を漏らす。
「壱理が買ってくれたそっちのアイスもいいが、オレはこのソルティソルベもはやく美味しく食べたいな。」
壱理はすかさず首筋を片手でガードしつつ、ギッと家主を睨みつける。
「しゃ…、シャワー浴びてくるっ‼」
つっけんどんに言うと、通りすがりビニール袋を実平に押し付けて、元気のいい青年はバタバタと部屋の奥、浴室へと引っ込んでいく。
後ろ姿を眺めながら、実平はそっとその切れ長の瞳を眇めた。
「本当に、味見だけじゃたまらないくらい美味しそうだな、…壱理。」
「あ~、スッキリしたぁ~。汗ベッドベドで気持ち悪かった~。」
リビングにやってきた壱理は、ぶかぶかの白いTシャツとジャージの短パン姿だった。相変わらず、隙が多く見える格好だが、悲しいかな本人に自覚はない。
「…壱理、烏の行水って知っているか。」
キッチンスペースで冷蔵庫前にいる実平に問われ、青年は頭を傾けた。
「カラスの、ぎょうざ…??」
「新メニューを考案すんな。」
ツッコミを入れつつ、実平は冷蔵庫を漁りだす。
「…お前が言った通り、アイスは二つともこの中に入れておいたぞ。」
「あ‼ありがとう、実平さん。カップと棒アイス、二つ選んだんだ。…どっちがいい??」
喋りながら、たたたっとそばにやってきた同居人に対し、実平はその柔らかそうな片耳を小さく食んだ。
「…っん…‼」
驚いて片耳を片手で多い、数歩後退った青年を見て、獣は満足げに喉を鳴らす。
「ソルティーソルベが清潔感溢れるせっけん味のムースに味変だ。この上なく美味しいうえに、フレーバーまで変わるなんて。こりゃ平らげない手はないな。」
「…っ」
目の下を赤くする青年の肩を実平はぐいと引き寄せて、自然な動きで背中に片腕を通す。額に小さく口づけて、彼はうっとり目を伏せた。
「…壱理、お前に選ぶ権利をやろう。アイスから食べたいか??それとも…、オレに食べられる方を先にしたいか??」
怒りに肩を震わせていた青年は、天井を突き破りそうなほどの大声で怒鳴った。
「俺をアイスに例えるなぁぁぁッ‼」
〈おしまい〉
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