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第2話
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夜七時、某県内の某田舎、狩野千紘は夏祭りが開催されている神社へと足を踏み入れていた。もう祭りではしゃいだりする歳でもないのだが、今朝の違和感が時間を過ごすにつれ大きくなっていくのだから仕方なかった。行けば胸中のもやが解消される気がしたのだ。さすがに高校生で保護者とともに祭りに参加するのは気恥ずかしさが勝ったため一人で来たのだが、これはこれで少し居たたまれないか。家族や友人、カップルなどで溢れかえっている参道を眺め千紘はそんなことを思うのだ。
(懐かしいな)
出店にふらふらと視線を飛ばしながら千紘は前に進み続ける。チョコバナナ、タコ焼き、焼きそば、りんご飴、ヨーヨー釣りに輪投げに射的、これぞ祭りといった屋台が所狭しと並んでいた。
六年前、自分はここで色々と買って貰ったんだったか。そのとき食べた綿菓子が美味しくて、ついつい涙も引っ込んで。
(……いや、違う)
祭りの最中も自分はずっとぐずっていたのだ。祖母が何か買おうかと尋ねてもずっとだんまり。誰もかれもが楽しそうな顔をしているなか自分はとても場違いだったろうし祖母にも面倒をかけてしまっていた。
ではどうして自分はいつの間にか泣き止んでいたのだろう。
(確か、はぐれたんだ)
人ごみに揉まれ、繋いでいた手を離し波に飲まれてしまった。そのまま敷地内の奥の方にまで流されて、その後は――――。
(この階段を上って)
明かり一つない石の道を千紘は見据える。夜だからだろうか、どこか異様な雰囲気を帯びたそれを前に青年はごくりと喉を上下させた。
祖母から聞いた話によるとこの階段を上った先には使われなくなった本殿があるのだという。戦後、改修をしなければならなくなった際に整備がしやすいよう場所を下の方に移したらしい。随分立派な建築物だったようで、取り壊すのも忍びないから定期的なメンテナンスはしているがほぼほぼ放置状態とのことだった。
迷子になったあの夜、高い所から祖母を探そうとしたのだ。
(そこでオレは、誰かに会った)
石段を千紘は強く踏みつけた。一歩一歩とゆっくりあがっていく。歩いているうちにだんだんと記憶が蘇ってくるような気がした。
あぁ、そうだ。今日のように蒸し暑い夜であった。月が綺麗な夜であった。そこで自分は――――。
最後の段を上り切り千紘は千紘は顔を上げた。屋根の上の人影に気付く。刹那、熱を冷ますような突風が彼の頬を撫であげたのだ。
淡い光に照らされた黒く艶やかな髪。月を思わせる金色の双眸。不遜な笑みを浮かべる男を前にして千紘の心臓は早鐘のように騒いでいた。
「ここになんか用か? 坊主」
六年ぶりに会った神様は、昔と変わらぬ姿をしていた。
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