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第3話:回想
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* * *
『ひっく、ぅぐ』
薄闇の中でまだ幼い千紘の嗚咽が響く。祖父が亡くなり心に傷を負っているというのに、更に追い打ちをかけるように一緒に祭りに来ていた祖母とはぐれてしまい、もう感情の制御が効かないのである。人気のない元本堂の鳥居の前でぼろぼろと涙を流し続けていた。
『は~、いい加減泣き止めって。おじちゃんのタコ焼きやっから』
着物を纏った男はしゃがみながら言う。綿あめ、水ヨーヨー、焼きそばに射的の景品であろうもの、などなど祭りの戦利品をこれでもかと携えた中年男性。なんともまぁ浮かれた格好であった。
湯気の立つタコ焼きをちらつかせるが少年は見向きもしない。男は小さく息を吐く。
いつもの場所でいつものように時間を潰していたとき、ふらりと子どもがやって来た。別にここは立ち入り禁止というわけでもないため人が来ること自体はそう珍しくもない。酔っ払って迷い込んだおっさんとそのまま酒盛り、なんてこともよくしていた。ただこの子どもは先程からずっと泣きじゃくっているのである。迷子か家出か。理由を聞いても泣くのにいっぱいいっぱいなようで答えてはくれない。かといって泣いてる子どもをこんな夜更けに放置するほど男の良心も枯れてはいないのである。なにより喧しことこのうえない。どうしたものかと男は首を捻らせた。
『よし、なら特別サービスだ。いいもん見せてやるよ』
『うわ⁉』
そう言って男は子どもを抱き上げた。180を超える男に持ち上げられぐわりと地面が遠ざかる。そしてトンッと本堂の屋根の上まで飛び跳ねたのである。突然のことに驚いたのか少年の涙は引っ込んでしまった。目を白黒させている少年を膝上に乗せたまま、男はどかりとその場に腰掛ける。
眼下には祭りの風景が広がっていた。明かりを宿した提灯が連なり、一帯が活気で満ちている。
『目かっぽじって見てろよ』
男は掌に葉を三枚ほど乗せたかと思うと息を大きく吹きかけた。その時である。風に乗った葉っぱが燃え始めたのだ。段々と大きくなったそれは龍のような姿になり空高く上り始める。山を越え、雲を越えた龍はやがて弾け、大きな天の華となった。
『わぁ……!』
花火は止まることなく咲き続ける。その様子に千紘は感嘆の声を漏らした。
『はは、やっと泣き止んだな』
泣き腫らした少年の目元を男の太い指が撫でる。鮮やかな光の元に男の姿がくっきりと浮かびあがる。慈愛の色を含んだ優し気な笑みに、千紘の心臓が大きな音を立てたのだ。
『……おじさん、かみさまなのか?』
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