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第5話
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夏の日差しが辺りを照りつける。雌を呼ぶ蝉の喚き声が至る所から聞こえてきていた。生温い空気を肌で感じながら千紘は、本殿前の陰になっている場所に腰を下ろしコンビニで購入したアイスバーに齧りついていた。
「お前友だちいねーの?」
藪から棒に吐き出されたそんな言葉。本殿のど真ん中で寝転がっているカラを見てに千紘は表情を歪ませた。
「フツーに居るけど」
「じゃあオトモダチと遊び行ったりしろよ。こんなおっさんのとこ通ってないでさ」
「……アンタには関係ねーだろ」
ぶっきらぼうに言い放つと青年はもう一度氷菓に齧り付いた。がり、がり、と気持ちのいい音が立つ。ソーダ味のそれが喉の乾きを潤していくのだ。
祭りの夜から1週間程が経った。あの日からほぼ毎日のように千紘はカラの元に通っている。本来であれば2日前に母親と共に東京の自宅へと帰る予定であったのだが、田舎の方が集中して夏休みの宿題ができるだのなんだのと理由をつけてもう暫く祖母の元に滞在する許可を勝ち取ったのだ。お分かりいただけると思うが課題なんてのは建前である。ただ、この男から離れたくないと思ってしまった。それだけだ。
それなりに相手と関わるようになって青年には分かったことがある。
一つ、この男は意外と交友関係が広いということ。昼過ぎあたりになると男はよく神社から出かける。港に行っては釣り仲間らしい人と喋り、商店街をふらついては店主らしきおじさんおばさんと世間話をし、どこで知り合ったのかギャルのような少女からもすれ違いざまに挨拶をされていた。ついでに、神様だからなのか、貢がれ体質なようで釣った魚や商品の余り、菓子類などを与えられていたのだ。
二つ、怠惰であるということ。一日の大半はごろごろと本殿の中で寝転がって過ごしているようだ。何か仕事はしてたりしないのかと聞いてみたところ「俺らにゃ必要ねぇよ」とへらへら笑って返された。働く気もないようである。
三つ、酒カスヤニカス賭博好きの最悪のコンボを決めているということ。行く先々で酒を飲む。常に煙管をくゆらしている。パチンコや雀荘などの施設に行っては神様パワーでも使っているのかそれなりに稼いで帰ってきているようだった。
要するに、こうはなってはいけない大人の煮凝りのような奴なのである。こんなのが神様でいいのか? いや神様だからこそこんな自由奔放にやれているのか? 記憶の中に美しく色づいていた姿とは全くの別物である相手に千紘は調子が崩れてしまいそうになる。
(だってのに、なんでオレは……)
「可愛いと思っちゃう?」
「ほんっとマジでありえね――――は?」
耳元で知らない声が聞こえてきた。低く美しい音。反射的に振り向けば、切れ長の目に金色の髪の整った容姿をした若い男がいつの間にか隣に座っていたのだ。
「どうも~」
こちらの心の内を読んできた存在はひらりと手を振る。髪とおなじ色をした狐の尾がふわりと揺れた。
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