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銀城欺-総北箱学忠臣蔵-~腐二次創作弱虫ペダル
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それは唐突に起こった。
ことの起こりは昨年の夏、金城真護と箱学のエース、福富寿一が落車したことに由来する。
一緒に落車したにもかかわらず、福富寿一は繰り上げ一位で入賞。
片や金城は、走路妨害行為を働いたとして、不名誉失格と決まった。
不名誉失格となった金城は二度と自転車競技に出られなくなった。
それだけではあきたらず、高校自転車競技部会は千葉県高校自転車競技部会に圧力をかけ、総北高校自転車競技部そのものを解体させてしまった。
収まらないのは部員たちである。
来年の夏があると思えばこそ、片落ちの裁定にも唯々諾々と従った。
その結末が廃部である。
こんなことは許せないと息まく部員たちの中で、当の金城は自転車をやめ、GFをたくさんつくって毎日カラオケに行ったりしていた。
ラブホ街で見かけたという者も多く、もう金城は完全にダメになったなどと噂が世間に広まっていった。
箱根学園自転車競技部内は、不隠な空気に包まれていた。
自らの誤ちを裁かれない福富は、自責の念にかられて自殺。
福富を深く愛していた新開隼人は、総北高校を激しく恨み、ラブホ街をうろつく金城を、殺してやろうと決意していた。
荒北靖友はもっと直情に千葉へ乗り込んだ。
出会う自転車乗りを片っ端からあおり倒して、二度と自転車に乗る気にならないように意志を挫き続けていたが、ある日峰が山で、不思議な乗り手に出会ってしまった。
その細っこい、メガネの少年は、ママチャリだというのに坂をやすやすと上がり、荒北を抜くときなど、聞いたこともない歌を、♪ヒーメヒメ、好き好き大好きと軽やかに口ずさんでいたそうだ。
荒北は衝撃を受け、自転車をやめてしまった。
東堂‥
いや東堂のことはひとまず伏せておこう。
春になった。
箱学には新一年生が続々と入ってきた。
新一年生だけでなく、二年や三年も入部してきて、競技部内は一時騒然となったが、歴然たるカの差を見せつけられ、有象無象は黙った。
夏が来た。
今年の大会委員長は楠本陽一。
昨年箱学を率いていた監督だ。
箱学のみを生き残らせ、総北を潰した手並みに、全役員が戦慄し、のしあがるのはとんとん拍子だった。
と同時に、誰も彼を敬愛してはいない。
そのことは本人も知っており、苦い酒を酌む毎日だった。
そんな中で、今年のインハイがスタートした。
新開隼人、荒北靖友のいない、新人スプリンターもいない箱学のはずが、大柄の男がぐんぐん走って、初日スプリントを獲得した。
登りは現部長、東堂尽八が獲得したが、稀にみる異様な走りの男と、超ハイケイデンスの小柄な男が、かわるがわる東堂を引いていた。
そして一日目のゴールは箱学が獲得した。
二日目のゴールも同じ男が獲った。
二枚の赤ゼッケン。
銀城欺(あざむく)と名乗るその男の正体を、全競技者が知っていたが、誰ひとりそれを指摘する者はなかった。
三日目、箱学憎しと仕掛けてきた呉南の待宮は、狙うべき相手が既にいないことに悲嘆して、すでに潰れていた。
残る敵は京都伏見だったが、名を変えて走る坊主刈りの男に圧倒され、ゴール前数キロで散っていた。
銀城欺は三日間を制して後、初めて表彰台に上がった。
銀城欺が表彰台のいちばん上に立つと、トロフィーを持つ楠本の手が震え、その顔が怒りに歪んだ。
「きさま!! 金城真護じやないか!」
誰もざわめかず、全員の視線が楠本に集中している。
「どういう茶番だこれは!」
「てめえがやった茶番のお返しだ」
血も凍るような瞳で、東堂が楠本を射るように見た。
「うちのオーダー、ちゃんと見とけばよかったな」
スプリンター、田所迅。
クライマー、東堂尽八、真波山岳、巻島裕介、小野田坂道。
エースアシスト、今泉俊輔。
そしてオールラウンダー、金城真護…
「これがてめえのしでかした、悪裁定のなれの果てだ。寿一と総北高校を返しやがれ!」
各校の部員たちがざわめき立つ。
壇上で、楠本が立ちつくしている。
「金城っ! 東堂っ!」
ざわめきはますます高まっていく。
誰もが楠本が何をしたかを知っている。
いや。
たった一人、理解していない、理解したくない男がここにいた…
「金城っ!!」
叫んで金城に体当たりする新開隼人。
小ぶりのバタフライナイフが金城の鳩尾あたりに、柄(つか)ぎりぎりまでめり込んでいる。
「四枚めの赤ゼッケン。やるよ」
鬼の目でわらう新開隼人を、スタッフがとり押さえる。
みるみる染まってゆくジャージ。
蒼ざめてゆく金城。
「金城!」
「金城さんっ」
チーム“箱北”全員が駆け寄る中、金城はつぶやくように言うのだ。
大丈夫だ。
やるべきことはみなやった。
俺は福富に…結果を伝えに行…
「金城さんっ!」
坂道の声がひときわ高く、夏の夕景をつん裂いた…
この年の大会は、箱学の総合優勝となった。
“箱北学園”は存在しなかったこととなり、総北自転車競技部も復活しなかった。
巻島は海外に去り、田所はパン屋を継いだ。
今泉と小野田は総北高校に戻り、自転車同好会で走っている。
同好会なのに人気があり、かなりな人数がいるそうだ…
「という夢を見たのだ」
まっ青な顔で福チャンが言う。
俺は呆れて福チャンを見る。
「だからオレは何言えばイイのォ」
「俺は…俺は…」
しばらく考えていたが、
「総北へ謝りに行く!」
火に油注ぐだけだろう、とは思ったけど、福チャンはひとりで行っちまった。
入れ違いに楠本カントクが来やがった。
俺、嫌いだコイツ。
今もコスカライ顔しやがって、室内をキョトキョト見渡してる。
「福富はいないのか」
「総北行った。金城に謝ってくるってよ」
やつはよく大人がする、典型的な表情をした。
『何でよけいなことを』だ。
とつぜん俺はこいつの中に、福チャンのおそれる通りのものを見た。
こいつが吉良だ。
俺が新開に話すと、新開も俺に同意した。
やっぱ福チャンはすげえっ!
1214 2O41UP
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