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顔に出やすい
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こい、こい…?
恋!?
「うっううう嘘つくなお前!!」
「嘘なんかじゃないですよ〜」
イスをガタガタと鳴らしながら立ち上がって反論すると、ホラーマンはいつものようなヘラヘラした笑顔に戻って否定する。
そんなはずはない、俺様がアンパンマンに恋してるなんて、そんなの絶対、絶対にありえない。
「じゃあ、どういう事が説明してみろよ!」
出来るもんならな、と適当な事を言っているはずのホラーマンに言うと、あっさりと承諾して話し始めた。
「まずですね〜、家族にされて嫌だった事をその人なら受け入れられるっていうのは、ばいきんまんにとってその人が特別な存在だからなんですね〜」
「おう」
確かに、俺様にとってアンパンマンは特別な存在だ。
あんなに倒したいと思える相手はアイツしか居ない。
「その特別っていうのをばいきんまんがどう捉えてるかは分かりませんけど、少なくとも良い意味で特別なんだと思いますよ〜」
良い意味で?
倒したい相手として特別っていうのは、良い意味では無いような気がするけどな。
「そしてですね〜、相手に見られているのが恥ずかしいっていうのは、好きな人には自分のかっこ悪い姿を見られたくないっていう思いの現れだと思うんですよ〜」
そしてそこで一旦話を切って、ホラーマンは少し水を口に含んだ。
「そしてそれは、ワタシがドキンちゃんに対して思っている事と同じなんですね〜。つまりばいきんまんは好きなんですよ、その人の事が」
そこまで言われて言葉に詰まる。
こんなにも確信を持って説明されたら、反論する言葉を見つける事が出来ない。
でも、でも、やっぱり、自分がアイツの事を好きだなんて信じられない。
「これでも信じられないっていう顔してますね〜」
思っていた事を当てられて、ハッとしてホラーマンの顔を見る。
きっと今、俺様は縋るような情けない顔をしていると思う。
まだ心のどこかで、ホラーマンが今まで話したことを全部嘘だと言ってくれるんじゃないかと淡い期待を抱いている。
「じゃあ、そうですね〜」
そんな俺様の心の内を知らないホラーマンは、コップを揺らして中の水の動きを目で追いながら何かを考えている。
これ以上何を言うっていうんだ。
嫌だ、認めたくない。好きなわけがないんだ。
無理言って悪かったから、こんな事言われると思って無かったんだ。
声に出せない思いを目で訴えようとしても、水を見ているホラーマンとは目が合わない。
「その人といて…何というか、幸せを感じませんでしたか?」
その問いかけに、一昨日の事が頭をよぎる。
アンパンマンといて幸せと似たような、よく分からない気分になった。
「感じた、けど──」
何でお前がその事を知っているんだ、と聞く前に本人から答えが返ってきた。
「それが好きってことなんですけどね〜」
自分で言ってしまった手前、取り消すことなんて出来ないし、もう、認めるしかない。
俺様は、アンパンマンのことが、好き。
そう自分の中で言葉を呟いてみると、少ししてから一気に恥ずかしさがこみ上げてきて、ブワッと体温が上がるのを感じる。
熱さをどうにかしようとホラーマンが注いでくれた水を喉に流し込むと、変な所に入って思いっ切りむせた。
「ごほっ!ごほっ…うっ、ごほっ」
「ああ、もう何してるんですか〜」
そう言ってホラーマンは席を立って俺様の背をさすってくれる。
「まあ、その様子だとやっと分かって頂けたようですし、ワタシはそろそろ部屋に戻りますかね〜」
と言うと、ホラーマンは俺様の分のコップも流しへ持っていくと洗い始めた。
「…ありがとな、色々と」
「途中からもう止めてくれって顔してましたけどね〜」
「な!?分かってて言ってたのか!」
背中に向かって思わず大声を出しても、ホラーマンはくすくすと笑うだけで振り向かない。
「だってここでワタシが言わなかったらアナタ、自分じゃあ気づかなかったでしょう」
「それは、…そうだけど」
この気持ちに気づいたことは、果たして良かったのか。
悩んでいたことは確かに解決されたけれど、新しい悩みが生まれた気もする。
そう思って歯切れの悪い返事をすると、コップを洗い終わったのかホラーマンがシンクに身体を預けながらこっちを向いた。
「気づかない方が良かった、なんて事はないと思いますよ〜、気づけば想いを伝えるかどうかも考えられる訳ですし〜」
さっきからコイツがちょくちょく俺様の心を読んでくるのは何なんだ。
心臓に悪いからやめてほしい。
「顔に出てるんですよ〜」
ほらまた。そんなに顔に出てるのか。
直さなくちゃ不味いかもしれないな、と思いながら両手で顔をぐにぐにと触っていると、ダイニングから出ていこうとしたホラーマンが思い出したように声を上げた。
「ああ、それに」
「それに?」
話しながらも歩みを止めないホラーマンに聞き返すと、ドアの隙間から顔だけ出して、
「ばいきんまんがあまりにも鈍感で、アンパンマンが可哀想だったので〜」
それだけ言ってパタンとドアを閉めてしまった。
1人残された俺様は暫く驚きと恥ずかしさで固まった後、気持ちが顔に出やすいという自分を呪った。
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