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怖いわけない。
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『寄ってくよな?』
その言葉に無意識に返事をしたのが数分前。
現在イチヤさんの部屋に通されて、リビングにあるソファに座ってるんだけれども、イチヤさんでいっぱいのこの空間にすでに俺の心臓は止まる寸前だ。
緊張しすぎてキッチンで飲み物を準備してくれているイチヤさんを見ることもできない。
視線は自分の膝一点に集中して、心臓が口から出て来るんじゃないかと思うほど激しく脈打っていた。
イチヤさんを好きなのかもしれないって思ったばっかりの俺には少々、いや、かなりハードルが高すぎたんだ。
もはや泣き出してしまいそうになっている俺は、「はい」って返事をしてしまった自分に後悔すらしている。
本当にどうしよう。
そんなことを考えていれば、正面のテーブルにコトリとマグカップが置かれた。
「どうした?」
「な、なんでも・・・」
見上げれば、心配するような視線とぶつかっていよいよ泣きそうだ。
イチヤさんはちょっと困ったように笑って、俺の隣に腰をおろす。
やけにうるさい心臓の音にイチヤさんにばれてしまいそうで無意識に制服のズボンを握りしめた。
イチヤさんは何にも言わないで手に持ってた方のマグカップを口元に持っていく。
そんなイチヤさんを見ながら躊躇いがちに俺もマグカップを手に取った。
「・・・いただきます」
「ん」
見ればそれはアイスココアで。
初めて会った日にココアが好きって言ってたの覚えててくれたんだって思ったら、それだけで少し肩から力が抜けた。
それをそのまま口に運んで、一口こくりと飲み込んだ。
口の中に広がる甘さと喉が潤う感覚に喉がカラカラになってたことに初めて気付いた。
「おいしい、」
自然と頬がほころんで勝手に漏れ出た声に、イチヤさんがふっと笑った。
「やっと笑ったな」
隣に座るイチヤさんに視線を向ければ、ちょっと安心したようにイチヤさんが笑ってて。
「ガチガチになってるからどうしようかと思った」
そう言ったイチヤさんに緊張していたのがバレてたんだとわかって、恥ずかしさで頬に熱が集まったのがわかった。
「すいません・・・」
「気にすんな」
優しく笑うイチヤさんに申し訳なくなってしまう。
自分で返事しておいて勝手に緊張して心配させて。
そんな自分にヘコみつつ、甘いココアをすすっているとイチヤさんの手が俺の頭に伸びてくる。
安心するその大きな手に撫でられて、無意識に口元を緩ませてる俺にイチヤさんは優しく目を細めた。
ココアを飲み終わる頃、やっと心臓も落ち着いて思考が当たり前に機能し始める。
そう言えば、俺たちの他に人の気配がしないことに気付く。
今更ながら、留守なのかなって視線を彷徨わせていれば、どうしたってイチヤさんにのぞき込まれた。
「あの、ご家族の方は?」
「ああ、俺一人暮らしなんだよ」
「そうなんですか!」
ちょっと意外で、でも言われて見ればと、思わずぐるりと視線を部屋に巡らせた。
男の一人暮らしにしてはキレイにされてるちょっと広めの部屋にさすがだ、と変に感心してしまった。
でも高校生で一人暮らしとかちょっと憧れる。純粋に羨ましいと思った。
「すごいですね、一人暮らしとか!」
「そんないいもんじゃねえよ」
クスクスとイチヤさんが笑って、興奮してしまった自分にちょっと恥ずかしくなった。
だって、羨ましいと思ったんだ。仕方ないよ。
しかし、ハタとあることに気付いた。
え、もしかしなくても、2人っきりでは・・・?
そう考えた途端、カーッと顔に熱が集まった。
気付かなければ良かった。
やっと落ち着いた心臓が再び早鐘を打ち始める。
さっきよりはましなものの体に力が入ってしまい、視線はテーブルと自分の膝を行き来して落ち着かない。
どうしたものかと思っていれば、イチヤさんが動く気配に思わず肩が揺れる。
コトンと音を立ててイチヤさんがマグカップをテーブルに置くのを無意識に目で追っていると不意に呼ばれる名前にさらに心臓が跳ね上がった。
「稜太」
重なる視線に、目をそらすことも動くことも出来ないでいるとイチヤさんの手が俺の頭に伸びる。
優しく髪を梳いたかと思えば、その手が頬に移動してきた。
手が頬に添えられたまま見つめ合うこの状況にうるさいくらいの心臓の音だけが頭に響いてる。
何だかこの空間だけ違う世界みたいだった。
「稜太、」
「は、い」
「俺が怖くないか?」
真っ直ぐに俺を見る目が少し揺らいだような気がして、吸い込まれそうな錯覚を覚える。
イチヤさんが言いたいことは何となくわかった。
俺でも名前くらいは知ってた。
本山壱也。
イチヤさんは学校の不良のボスだった。
名前は知ってたのにイチヤさんがその人だなんて、全く想像もしなかったし、結びつけることもしなかった。
だから、屋上でイチヤさんと会ったときはすごくすごく驚いた。
でも。
だからって、どうして俺がこの人を怖いなんて思うだろうか。
だってこの人が優しいことを俺は知ってる。
「怖いわけないです」
そう答えれば、イチヤさんはそうかって声をこぼして、添えられていた手が優しく頬を撫でた。
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