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騙された。
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「あれ?屋上じゃないんですか?」
進む先にあるのは実習棟。
普段行き慣れない道のりにちょっと違和感を覚えた。
「そうそう。大事な話らしいから、人がいないとこがいいみたい」
「そうなんですか」
ニコニコと笑う先輩につられて俺もニコニコと笑顔を返す。
一体どんな用だろう。
普段は来ることのない実習棟は、放課後のせいか人気がない。
先を歩く先輩が立ち止まったのは、実習棟の裏の古びた倉庫の前だった。
鉄の扉が鈍い音を立てて開く。
中へ入って行く先輩の後を躊躇いながら一歩足を踏み入れた。
「赤城!連れて来たぞ!」
張り上げられた声とともに、ぐいっと前に引き出される。
え、と先輩を見れば最初に見た嫌な笑い方をしていた。
だんだん目が慣れてきて、倉庫の奥に赤城と呼ばれた柄の悪い男が偉そうに座っているのが見えた。
「遅かったな前田」
「うるせえよ。人を使いやがって」
い、意味がわからない。
でも、そこにはもちろん壱也さんの姿はなくて、代わりに明らかに不良の風貌をした輩が十数人もいるではないか。
ほんとに俺ってバカだと思った。
ここにきてようやく自分が騙されたことに気付くとか。
やばいって思ってこの場から逃げ出そうと走り出すけど、捕まえられた腕にそれは叶わなかった。
「ダメだよ~森川クン。逃げたら連れて来た意味がないじゃん」
そう言って笑う前田という男に背筋が凍りついた。
どうしようもないこの状況はただただ恐怖しかなくて、情けないかな、視界が涙で滲んだ。
「あはは。大丈夫大丈夫、森川クンには何にもしないよ~」
「え、」
「ただ本山を呼び出す餌になってもらうだけだから」
ふふっと笑う男に何のために連れて来られたのかわかってサーっと血の気が引いた。
滲む視界の中、奥にいる一人がゆっくりとこちらに向かって来るのが見えた。
怖くて顔を上げられないでいると、突然頬を掴まれて顔を上に向かされる。
無遠慮な手は力の加減なんかなくて、掴まれた頬が痛い。
「こいつが森川か。随分毛色が違うな」
「いっ、、、」
「こいつほんとに使えんのか?」
「使えるんじゃねえの?可愛がってる後輩には違いないんだし」
「そうだな」
ゲラゲラと下卑た笑いが倉庫内に響いた。
たぶんというか、間違いなく俺を人質にしようって考えてる。
壱也さんは優しいから呼び出されたらきっと助けに来てくれる。
でも、たぶんこいつらは簡単に俺を解放してくれないと思う。
じんわり滲んだ涙が零れそうになる。
壱也さんの名前を出されたからってどうして簡単について来ちゃったんだろ。
ごめんなさい、俺がバカなばっかりに。
壱也さんに迷惑なんかかけたくないのに。
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