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好き。
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「ほんとお前には敵わねえよ」
「え」
独り言みたいに呟かれた言葉は聞き取れなくて。
その目をじっと見ていたら髪を撫でていた壱也さんの手が不意に頬に滑り降りてくる。
くすぐったくて思わず目を閉じて、再び目を開くと壱也さんと視線が絡んだ。
もう頬を濡らす涙はどうでもよくて、涙で揺れる視界の中優しく細められた壱也さんの目をじっと見つめ返した。
ゆっくりと影が重なってきて、ぼやけてしまいそうなほど整った顔が近づく。
あっと思った時には、唇に優しく触れる感触。
ほんの少しだけ触れ合って、ちゅっと音を立てて離れていく。
それが一体どういう行為なのか、鈍い俺でもすぐにわかった。
反射的に顔を真っ赤にして口元を両手で押さえる俺に壱也さんはクツクツと肩を揺らして楽しそうに笑ってる。
「顔真っ赤」
言われなくてもわかってるのに、鼻先が触れ合う距離で零される言葉に顔から火が出そうになった。
更には、お前やっぱかわいいと呟いて今度は額に唇を押しあててくる壱也さんに、ゆうに許容範囲を超えている俺の脳みそはもうパンク寸前だ。
「稜太、とりあえずさっきの続き話していいか」
息がかかる距離でまっすぐと見つめてくる目に、声も出なくてこくこくと頷くと壱也さんは優しく笑った。
「ほんとにお前から離れたほうがいいって思ってたんだ」
「ぃや、です…」
「うん。だからな、思ってたんだよ」
「あの、?」
話が見えなくて気持ち首を傾げる。
一体何が言いたいのか。
「お前のためにもって思ってたけど、やられたよ。抱きついてくるし、好きとか、お前まじで反則」
「ッ!!」
自分的には忘れ去りたいさっきの行動と口走ってしまったことを思い出した。
今までの恥ずかしさとは違う意味の恥ずかしさに襲われて、穴があったら潜り込みたい衝動に駆られる。
もちろん、壱也さんに頬をホールドされているからそんなの不可能なんだけど。
壱也さんが目を細めて優しく笑ったかと思ったらこつんと額をくっつけてきた。
「お前が好きだ」
「ぇ、」
突然、投下された言葉に反応できなくて、揺れる瞳で数センチ前にある目を見つめた。
「好きだよ、稜太。だからもう放してやんねぇ。何があっても俺が守るから」
目を逸らすことなく告げられる言葉がじわじわと染み込んで来て、止まっていた涙がまた溢れ出した。
ボロボロと零れるそれは止まらなくて壱也さんの手まで濡らしていった。
濡れる目元にゆっくりと唇が降りてくる。
慈しむように、両方の目尻に、瞼に惜しみなく降り注ぐ口付けに心まで震えた。
「泣くなよ」
「だっだって、おれ、も、だめかもって…っ」
ほんとに、だめかと思ったんだ。
近くにいられなくなるって。
声を聞くことも、触れてもらうこともなくなってしまうって。
こんなにも、俺の中は壱也さんでいっぱいなのにって、本当に心が死んでしまいそうだったんだ。
泣き止まない俺に壱也さんはちょっと困ったように笑った。
でも、ずっとあやすように目元にキスしてくれたり、髪を撫でてくれたり、抱きしめてくれたり。
やっぱり壱也さんは優しくて、大好きだって思った。
「な、稜太、返事は?」
そんなのもちろん。
「はいっ」
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