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反対。
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「ただいまー」
「おかえり」
浮かれた頭のまま、リビングに入ればいつも通り母さんのお出迎え。
それから、よく知っている人物が何故か我が家でテレビを見て寛いでいた。
まあ別によくある光景だけども、何故この時間帯にいるのか激しく疑問だ。
「え、蓮何してんの?」
「…遅い」
ゆっくりと振り向いた俺の幼馴染は、不機嫌マックスのようです。
「で、どうしたの?こんな時間に」
俺の部屋に客用の布団を敷きながらベッドに凭れて座る蓮に投げかける。
とりあえずご飯食べて、風呂にも入ってたら、もう日付が変わってた。
あ、待たせるのはいつものことなので気にしない。
しかし返ってこない返事にこの幼馴染は今だにご機嫌斜めだと察する。
え、何まだ不機嫌なの。
思いつつ、布団を敷き終わった俺は蓮を通り越してベッドに座った。
これもいつもの定位置なので悪しからず。
「蓮、何怒ってんの」
壁を背凭れにして斜め前の蓮の後頭部を見下ろした。
蓮はいつものクッションを抱きしめて、顔の下半分を埋めている。
俺のなんだけどお気に入りらしい。
「なあ、蓮ってば」
何にも言わない蓮が焦れったくて、ヒョイっと顔をのぞき見れば、驚いたのか一瞬蓮の肩がビクっと跳ねた。
「どーしたの?」
「・・・・」
「れーんー」
「・・・あのさ、」
じっとのぞき込んでたら、不機嫌顏のまま渋々蓮が口を開いた。
「放課後のことなんだけど」
「ん?」
「…やばかったんじゃないの?」
「え?」
「大城戸が誠に何か言った後、誠のヤツ血相変えて教室から出てったんだ。何かあったんだろ」
「・・・・・」
じっと睨むように視線を送ってくる蓮に冷や汗がたらりと背中を伝った。
しまった。
完全に忘れてた。
あの騒動の後、荷物取りに教室に戻ったけど蓮とまこっちゃんはいなかった。
今思えば、たぶんまこっちゃんが機転を効かせて蓮を連れ帰ったんだろう。
バタバタしてたし、頭の中はあの乱闘と壱也さんのことでいっぱいだったから蓮のこと完全に忘れてた。
そうだよ。この心配性な幼馴染は危ないって思ったら止めるって言ってたじゃないか。
「・・・・・」
「…稜太」
押し黙る俺に一層睨みを効かせる蓮。
これは素直に言わなければ確実にキレるということがわかる。
言いたくないんだけども。
はあ、と無意識に溜め息が漏れるのも仕方ない。
「…実は、」
とりあえず、今日あったことを素直に話した。
俺を呼びに来たあの先輩は3年の赤城という男の仲間だったこと。
その赤城達が俺を使って壱也さんを潰そうとしてたこと。
それにまんまと騙された俺はホイホイついて行ったこと。
でも、それを壱也さんに助けてもらったこと。
もちろん、壱也さんのおかげで俺は全くの無傷ということを強調して。
話し終わってしばらく経つけど、蓮は眉間に皺を寄せて黙ったまま。
すごく怒っているというか考えてるというか。
話すために隣に座ったは良いけど、その表情がとても恐ろしくてやっぱり後ろに座ったまま話せば良かったと後悔しているのは言うまでもない。
蓮が動くのをビクビクと待っていれば、突然盛大な溜め息を吐かれてこちらも盛大に肩が波打った。
チラリと視線をそちらに向けると呆れたように半目になった蓮がこっちを見ていた。
「・・・・・」
「・・・・・」
「な、なに・・・」
「はあ、もうお前ほんとバカ」
「おっしゃるとおりです」
蓮はまた一つ呆れたように溜め息を吐いて、クッションにボスンと顔を埋めた。
見てのとおり呆れられてしまった俺は何も言えない状況に項垂れるしかない。
またもや黙る蓮にだんだんと居心地が悪くなってくる。
何か言うべきかと迷っていたら、不意に蓮が顔を上げた。
「お前やっぱあいつと関わんないほうがいいよ」
蓮の顔は真剣そのもので、その目は前言われた時よりも強い気持ちがこもっているように感じた。
でも、そう言われて頷くわけがない。
「いやだ」
「稜太」
「嫌なものは嫌だ」
「また今日みたいなことあったらどうすんだよ」
「嫌だけど、でも離れるのはもっと嫌だ」
「危ないってわかんないのかよ」
「わかってるよ。でも、嫌なんだ」
「お前ほんとの馬鹿だぞ」
「…馬鹿でもいいよ」
俺のことすごくすごく心配してくれてるのはわかってる。
そんな顔させてごめん。
それでも俺は、
「蓮が心配するの、わかるよ。でもごめん、俺、あの人の近くにいたい」
「…お前馬鹿だよ」
「うん、ごめん…」
ごめんね、蓮。
俺あの人こと好きなんだ。
だから、離れるとか無理なんだよ。
じっと蓮を見つめていると、その瞳が少し揺らいだ気がした。
蓮が唇をキュッと噛み締める。
え、と思ったと同時に蓮が不意に立ち上がった。
「帰る」
「え、ちょっ…」
引き止めようと動こうとしたけど出て行く瞬間、蓮が言った言葉に固まってしまった。
パタンと音を立てて閉まる扉を見つめるしかなくて。
無意味に伸ばした手は宙を彷徨うこともなく静かに降ろされた。
『俺は反対だからな』
蓮の残した言葉が頭の中に木霊する。
「蓮…」
頭に浮かぶのは、泣きそうな顔をした蓮だった。
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