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妹、最強。
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低く唸るように響くエンジン音がだんだんと遠くなる。
もう何度も乗せてもらったバイクを見えなくなるまで見送った。
楽しい時間は決まって早く過ぎるもの。
今日はほんとにそのとおりだと実感した日になった。
「ただいまー」
「おかえり」
リビングに入るといつも通り母の姿が目に入った。
ひと段落したところなのかいつものコーヒーカップを手にダイニングテーブルに座っている。
「稜太、ご飯どうするの?」
「食べる。けど先に風呂入っていい?」
「はいはい」
そう言って母はカップを置いて準備にとりかかる。
俺も早く風呂に入ってしまおうととりあえず肩にかけていたショルダーバッグに手をかけた。
「おかえり、稜兄」
「たっただいま」
かけられた声にちょっとだけ驚いた。
見ると珍しく妹の姿がある。
我が家の特等席であるソファにだらしなく寝そべっている妹の鈴花。
思春期の女の子がそんなんでいいのかとちょっと呆れ気味に視線を送っていると身体を起こした鈴花に手招きをされる。
大人しく近くに寄っていくとなぜかニヤニヤ顔だった。
眉を寄せる俺に気にせず鈴花がソファの上から床を指差した。
・・・座れってことか。なんて横着なんだ。
そうは思っても逆らえず渋々座る俺に鈴花は満足気に笑った。
いや、元からニヤニヤしてたけど。
「なに?」
「あのさ、さっきのバイクの人って誰?」
「えっ」
ドキリ、と心臓が跳ねる。
壱也さんのことだってすぐにわかった。
見られてたとか思ってもみなかっただけに、変な緊張感に包まれる。
心臓の音が異様に大きく頭に響いて、誰だと聞かれただけなのに変に焦ってしまう。
「がっ学校のせ、先輩……」
情けないかな、どもってしまった。
視線も所在なさげにウロウロと彷徨ってしまう始末。
蓮の時みたいに不良には関わるなって言われてしまわないかと正直なところヒヤヒヤものだ。
チラッと鈴花を盗み見ると相変わらずニヤニヤしていて一体何を考えてるのか全くわからない。
やっぱり直視出来ずに視線を外すと一層口角が吊り上がったのが視界の端っこに見えた。
「彼氏?」
「はッはああ!?」
「稜兄うっさい」
びっくりした。声裏返った。思ったより声でかかった。ていうか後ろに飛び退いてしまった。
思ってもみなかった言葉にバクバクと音を立てる心臓を押さえて相変わらずニヤニヤしている妹の顔を凝視する。
必要以上に赤くなる顔にやばいんじゃないかと本気で思った。
この際母さんの風呂入れコールは聞き流す。
絶対に怪しまれた!
「ふふふ」
「なっなんだよっ」
「いーから。こっち戻って」
偉そうな中2の妹になぜか逆らえない俺。
しかも正座。
何でだ!
大人しくソファの前に腰を降ろすと鈴花が内緒話をするように口元に手をあてる。
ついつい耳を近づけた。
「大丈夫、お母さん気付いてないから」
「う、…っていうか、俺、べっ別にかかかか彼氏ッ、とか言ってないじゃんっ」
「いいのいいのわかってるから」
何がわかってるのかわからないけどこれ以上墓穴を掘りたくないから触れないでおく。
俺の心情なんか察してくれない妹は相変わらず楽しそうに続ける。
「彼氏かっこいいじゃん」
「だっ!…から彼氏じゃなくて、せ、先輩だって」
思わずまた叫びそうになって、慌てて小声になる。
「はいはい。今度家に連れてきてよ。で、紹介して」
「は?何でだよ。やだよ」
「いいじゃん。将来のお兄様になるかもしんないじゃん」
「なっ何!?お兄様って!?」
いいいいいい意味がわからないんですけど!!
この子の頭の中は一体どうなってるの!?
金魚よろしく、口をパクパクとしている俺に鈴花はやっぱりニヤニヤとした視線をぶつけてくる。
誰かこの人をどうにかしてください。
「いや~でも稜兄見直した!私絶対応援してるから!がんばってよ!」
「えっえっ?」
語尾にはハートマークが見え隠れしてる気さえする。
戸惑う俺にさらに鈴花は追い打ちをかけるように、今までに見たことないくらいの眩しい笑顔を向けてきた。
「絶対結婚式には呼んでね!」
(はあああああ!?)
すいません声になりませんでした。
放心する俺とは正反対の上機嫌過ぎる妹に軽く目眩さえ感じる。
一体こいつは何なんだ。
「稜太!!さっさとお風呂入りなさい!」
「はっ入ります!」
いい加減頭にツノが生えてきそうな母の表情に慌ててリビングを後にした。
ほんとに何なんだあいつ。
ニヤニヤ顔の妹が浮かんできて、一気に疲労感に襲われた。
あれ絶対彼氏だって思い込んでるよね。
いや、事実なんだけども。
一応、壱也さんは妹公認の彼氏になってしまったようだけど。
何だか面白がられている感が半端なくて正直なところ複雑な心境だ。
「不良×平凡とか美味しすぎるっ」
俺が盛大に溜め息を吐いている頃、鈴花のテンションが異様なほど上がってたとか知る由もない。
後日、俺の部屋にいわゆるBL漫画(不良攻め)が数冊置かれることになるのは、また別のお話。
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