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過保護な彼。
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「稜太、今日はタツがお前を家まで送るから」
「えっ!」
さらりととんでもないことを口にした壱也さんに思わず素っ頓狂な声が漏れた。
「え、あ、あの?」
間抜けよろしくぽかんと開いた口をどうにか閉じて、どういうことでしょう?と壱也さんを見上げる。
いや、言われてる意味はわかりますよ?
タツと呼ばれたこの黒尽くめの人が俺を家まで送ってくれると。
だけども、何故そうなるのかがワカリマセン。
昨日会ったと言ってもほぼ初対面に近いこの人に送ってもらうのはさすがに何というか、気が引けます。
ていうかそこまでしてもらう理由がない。
それに言い方的に壱也さんは一緒じゃないようなニュアンスがめちゃくちゃ引っかかった。
だってそんなの気まずいに決まってる。
「雨降ってるし単車の後ろには乗せられないだろ、危ねえし風邪引く」
確かにそうだ、とうんうんと頷いてみる。
でもだからってわざわざタツさんを呼び出さなくても。
「でもそれだったら俺電車で帰ってもよかったのに」
「そう言うと思ったから黙ってたんだろ。雨も降ってるし一人で帰らせたくなかったんだよ」
「え、えと…」
なんか、壱也さんのその物言いはものすごく過保護?な気がする。
ていうかそれって完全にタツさんは送迎のための「運転手」ってことじゃないの?
俺にはタツさんをそんな足代わりにするなんて出来ないんですが…
一気に込み上げてくる申し訳なさに俺の心は押し潰されそうです。
「で、でも、タツさんに申し訳ないです…」
ちらっとタツさんを見るけれど俺は問題ないですよ、とにっこりとした笑みを向けられる。
ほんとに気にしてないのか、気を遣ってるのか、その表情からは全く読み取れなかった。
「お前のことだからそう言うだろうとは思ってたけど、」
「……」
「でももうタツ来てんだ。ここでお前が一人で帰ったら何の為に呼んだのかわかんねえし、それこそ無駄足になるだろ?」
「う、」
俺にも言い分があるのだけれども、壱也さんが言ってることも間違いじゃなく。
壱也さんが俺に黙ってたとはいえ、ここで電車で帰るとか言うのはわざわざ来てくれたタツさんに申し訳ないのは確かだ。
「ちゃんと送ってもらえ」
「…はい」
まるで諭すような優しい口調の壱也さんに頷くしかないわけで。
そんな俺にいい子とでも言うように壱也さんが頭を撫でてくる。
何となく子ども扱いされてる感が否めないけど、大人しくそれを受け入れた。
「じゃあ行きましょうか」
渋々だけれども了承した俺の様子に黙って見ていたタツさんが傘を差し出してきた。
タツさんがもう一本傘を持ってたことに気付いてなくて、どこから出したのかと少し驚いてる俺の代わりに壱也さんがそれを受け取った。
「行くぞ」
「あ、はい」
傘を開いた壱也さんに促されて二人並んで先に車に向かうタツさんの後を追った。
相合傘じゃんとか何とか思っていれば、先に車に辿り着いたタツさんが後部座席のドアを開けて運転席に回った。
まるで偉い人にするような対応だなとその様子を見ていれば、当然のようにその開けられたドアから乗り込むように壱也さんに促される。
車に乗るだけでこんなに甲斐甲斐しくされるのはちょっと戸惑うけれども、運転席でタツさんも待ってるし壱也さんにも催促されておずおずと車に乗り込んだ。
だけどもやっぱりというか、壱也さんは傘を差したままで乗ってくる様子はない。
借りてきた猫みたいに後部座席に一人身を置く俺に壱也さんは小さく笑った。
「今日はマジでごめんな」
「いっいえ!用事できちゃったんならしょうがないですし」
慌ててそう言えばぐりぐりと頭を撫でられて、なぜか余計に寂しい気持ちが膨れ上がった。
壱也さんも信頼してるみたいだし、タツさんはいい人なんだと思うけどやっぱり少し心細いのだ。
「気を付けて帰れよ」
「あ、はい。…えと、壱也さんも気を付けて行ってきてくださいね」
「ん、ありがと。また連絡入れるから。稜太も明日のバイト頑張れな」
「はい」
そういうちょっとした壱也さんの言葉が嬉しくて思わず頬が綻ぶ。
そんな俺に壱也さんも同じように優しい笑みを浮かべた。
それから、
「ああ、それと…」
何かを思い出したみたいに口を開く壱也さん。
「早いとこ仲直りして来いよ、幼馴染と」
「…あ、はいっ」
「お前が俺以外の奴のことで泣いてんの面白くねえから」
「…え、」
その言葉の意味を理解するよりも早く、おでこに柔らかい感触が。
理解するのに一瞬の間。
「・・・!!」
それが何だったのか理解した途端、瞬時に顔に熱が集まった。
壱也さんはタツさんがいるにも関わらず俺のおでこに唇を押し付けたのだ!
「じゃあタツ、頼んだぞ」
「はい、任せてください」
硬直する俺をよそに行われる二人のやり取り。
タツさんの横顔が視界の端に映るけど、その口角が少し上がってるのは見間違いなんかじゃないだろう。
…今の絶対タツさんも気付いてるよ!!
「またな」
「…はい」
壱也さんの声に消え入りそうな声をなんとか絞り出せば、満足気に笑った壱也さんによってドアは閉められる。
すでにエンジンがかかっていた車が動き出したのはすぐだった。
恥ずかしさでいっぱいでしばらく固まったままでいれば、不意にタツさんのクスクスと笑う声が聞こえる。
それに反応して顔を上げればバックミラー越しにタツさんと目が合った。
「稜太くん顔真っ赤ですよ」
タツさんに突っ込まれるほど俺の顔は火照ってるらしい。
この上ないほどの羞恥に更に頬の熱が増す。
最早唸り声を上げることしかできなかった。
最後の最後でものすごい爆弾を投下していった壱也さんに、不意打ちに慣れることは絶対に無理だと確信したのは言うまでもない。
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