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羞恥、羞恥、…特別。
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安全運転で走行する車の中、スモークが貼られた窓ガラスをただじっと見つめていた。
真っ黒な窓は、決して景色が良いわけじゃない。
だけど、今の俺にはそうするしかなかったんだ。
俺、森川稜太、現在、生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされています。
安全走行で、かつ、エアコンもきいててめちゃくちゃ良い環境にいるにも関わらず、だ。
何故かって?
それはついさっき壱也さんに不意打ちという爆弾を投下されたから。
更に言えば、それをタツさんに見られたから。
もっと言うと上記二つの時点で相当なダメージを受けているというのに、追い討ちをかけるように、タツさんは顔が赤いと突っ込んできた挙句、何故か未だに楽しそうな表情を浮かべているからです。
そんなの大したことないじゃん、とかそんな声は聞こえません。
俺にとっては非常に大問題であり、未だ嘗てないほどの羞恥に苛まれ、俺の精神は瀕死の状態に陥っているのであります。
このままいけば最早昇天してしまうんじゃないかという勢いである。
…しまった…、うっかり思い出してしまった…!
……ほんと精神的に死ぬ…!!
いっそ意識を飛ばしてしまえたらと思っていれば、極限まで張り詰めた空気(俺にとっては)が唐突に破られた。
「稜太くん起きてます?」
「…はぇッ!?な、何ですかっ!」
伺うような優しい声であるにも関わらず、思いっきり肩が跳ね上がる。
しかも、声が裏返ったうえ、なんかでかくなっちゃったし。
…ああ、ほら、やっぱりタツさんおかしそうに笑ってるよ。
「そんなに驚かなくても、」
「…す、すいませんっ」
「…っ、いや、こっちこそ。静かになったから寝ちゃったのかと思いました」
寝れるわけないでしょお!!
人様にあんなとこ見られて悠々と寝られるわけありませんっ!!
そんな図太い神経なんか持ってませんよ…っ!!(泣
ただでさえ恥ずかしいのにタツさんが堪えるようにして笑うから余計に羞恥心が煽られる。
もうほんと誰か穴を掘ってそのまま俺を埋めてください…
しかし、意外とタツさんはひどかった。
うう、と項垂れる俺に構わずにタツさんから投球される言葉に、更に項垂れるはめになるのだ。
「稜太くんは壱也さんと付き合ってるんですよね?」
「!!!」
ストレートの豪速球きたー!!
…もう何か、タツさん唐突すぎです。
驚き過ぎて声にもなりません。
いや、さっきの光景を見てるんだし自然な疑問なんだろうけど、
くそぉッ壱也さんめ……!
涙目になりながら、今この時ばっかりは壱也さんを恨んでしまう俺だった。
「あれ?違いました?」
「…い、え…、違ってないです…」
改めて聞かれると恥ずかしくて仕方ない。
もごもごと答えれば、やっぱりそうですよねってタツさんが納得したように、何故か嬉しそうに笑ってる。
何でそこで嬉しそうにしてるんですか。
「わざわざ俺呼んで送ろうとしてたから大事な相手なんだなって思ってましたけど、まさか見せ付けられるとは思わなかったです」
「………」
笑顔で繰り出された第2球。
今度のはカットボールとでも言っておこう。
ええ、俺も思ってなかったですよ、人前であんなことされるなんて…!!
タツさんは楽しそうにあははと笑ってるけど、俺はそれどころではない。
恥ずかしさに悶えた上、
思い出して自爆。
…うん、やっぱ本気で死ねる。
あり得ない勢いで顔に熱が集まった。
もうほんとに燃えそうな勢いで!
人体発火とか笑えないよって突っ込みつつも、もう頭の中が意味わかんない状態だ。
せめて顔を見られないようにと両手で顔を覆ってみる。
そんな俺に気付いてるのかいないのか、タツさんはさっきと打って変わってしみじみとした口調になった。
「こんなこと言うのも何ですけど、壱也さんもああいう顔するんですね」
「え?」
「壱也さんは稜太くんの前だといつもあんな感じなんでしょう?」
「え、たぶん、はい…」
とりあえず顔を覆ってた両手を下ろして、壱也さんを思い出す。
タツさんの言うああいう顔とか、あんな感じとかよくわかんないけど、さっきの壱也さんはまあ普段どおりで、俺は素直に頷いた。
「やっぱりそうですよね。…でもあんな表情した壱也さんはレア物ですよ。たぶん稜太くんにはわからないかもしれないけど」
「レア物って…」
「マジでレアですよ。俺たちの前じゃあんなに甘い表情は絶対しないですから、あの人」
「ええっ!……甘い、ですか…」
「甘い以外の何もんでもないでしょ。俺、あの人とはまだ4年くらいの付き合いですけど、あんな顔した壱也さんは初めて見ましたから」
「………」
「ほんと、稜太くんは特別なんでしょうね」
「……特別…」
ぽつりと呟いた言葉は車のエンジン音に消されるくらい音になってなくて、タツさんに気付かれることはなかった。
ほんと珍しいもの見せてもらいましたと、クスクスと笑いながらそう言ったタツさんの表情はやっぱりどこか嬉しそうで、『特別』だと言うタツさんの言葉が徐々に俺の心に染み込んでくる。
落ち着きを取り戻しかけていた頬が真っ赤に染まるのにそう時間はかからなかった。
優し気に目元を細めた壱也さんが頭の中に浮かんだ。
それが俺だけに向けられてるのだと思うと嬉しくて恥ずかしくてくすぐったくて、何とも言えない幸福感に包まれる。
普段の、しかも、俺が知らない壱也さんを知ってる人にそう言われると素直に嬉しいと思ってしまう。
そっか。俺、特別なんだ…
ついつい緩んでしまった口元はしばらくは元に戻らないような気がした。
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