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仲直り。
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時間にしたらほんの数十秒。
それなのに、訪れた静寂は押し潰されそうなくらいひどく長いものに感じた。
「…………」
「…………」
黙り込む蓮に、何て声をかけていいのかわからない俺。
だけど静まり返った部屋と頭の中は対照的だった。
さっきから頭の中で『反対だから』って言った蓮の声が繰り返されてて冗談抜きで心臓が止まりそうだし、
そのせいでどうしても後ろ向きな思考ばかりがぐるぐるして悪い方向にしか考えが向かないし。
さっきも脳裏をよぎった絶交って言葉。
無視されても、壱也さんに関わるなって言われても、俺にとって蓮は大事な幼馴染みで。
もしかしたら俺は今日、その大事な幼馴染みをなくしてしまうのかもしれないって、そんな最悪な展開ばかりが浮かんでくる。
目頭が熱くなるのは気のせいだって思いながら、蓮を真っ直ぐに見つめた。
蓮が顔を上げる気配はない。
重い沈黙に耐えられなくて、じわりと汗ばむてのひらをギュッと握りしめた。
「…蓮、あの、」
「俺、考えたんだ」
遮るようにぽつりと蓮が言葉を零した。
「…な、なに?」
「………」
蓮の表情はやっぱり見えない。
言葉の意味を探るように様子を伺っていれば、蓮は少しためらいがちに再び話し出した。
「…あの時から俺ずっと考えてた。…俺やっぱりアイツには関わらないほうが良いって思ってる」
「………」
きっぱりと蓮が言った。
やっぱりって思った。
ズシッとその言葉が重くのしかかる。
わかってたことだけど改めて言われるのはきつい。
うっすらと滲み始めた視界が苛立たしくて、涙が零れないようにぎゅっと唇を噛む。
「不良だし、悪い噂しかないし、実際稜太は危ない目にもあったし…」
「……うん」
「でもさ、色々考えてたらなんかわかんなくなった。俺が知ってるのは噂だけで、直接知ってるわけじゃない。冷静に考えてみれば実際それが本当かどうかもわからないし、稜太が言ってたアイツは噂とは全然違うし、この間のも本山壱也が原因だったけど稜太を助けたのはアイツだろ…?」
「………」
「…俺はやっぱり稜太のこと大事だって思ってて反対だって言ったけど、でもそれは俺の意見で、…お前のこと無視していい理由にはならないのにね。…自分の考えばっか押し付けて稜太の話し聞こうともしないでほんとごめん。…俺意地になってた…」
「れん…」
視界がぼやけてくる。
蓮はやっぱり優しかった。
心配かけたのにいっぱい考えてくれてた。
呆れられて、見放されてもしょうがないって思ってたのに。
蓮がギュっててのひらを握りしめたのが見えた。
「稜太のことシカトしといて調子良すぎだって自分でも思うけど、俺やっぱりお前と前みたいに戻りたい。…俺のこと、まだ嫌いじゃなかったら…
俺と仲直りしてください…」
「〜〜っ」
なんて言うか、ブワッてなった。
仲直りしてくれるんだ。
って、そう思ったらもう我慢とかできなかった。
「……る、」
「……?」
「…なかなおり、する…っ」
「…ちょ、稜太!?」
必死に堪えてたはずなのに一気に涙腺が崩壊した。
顔を上げた蓮が慌ててる。
ごめんねって思うのに、そんな蓮を見て「いつもの蓮だ」って、更に押し寄せる安堵感に涙がどうしても溢れて止まらない。
「ごめ、…っれん、…ごめん、」
「ちょっと稜太、な、泣くなよ!」
「ゔぅ、むり…、ごめ、…れん、ぅ、ごめん…」
俺が蓮のこと嫌いになるわけないじゃん。
悩ませてごめん。
心配かけてごめん。
嫌わないでいてくれてありがとう。
そう伝えたかったのに上手く言葉にできなかった。
困ったように眉を下げる蓮に少し申し訳ないと思うけど、蓮が優しく背中を叩くから余計に涙は止まらなかった。
「…落ち着いた?」
「…ん、ごめん」
「そか、よかった」
ずずっと鼻をすすりながら答えれば、蓮が安心したようにふにゃりと柔らかい笑顔を見せた。
久しぶりに見たその表情に危うくまた涙腺が緩みそうになる。
当たり前に目線を合わせられるのがほんとに嬉しかった。
「久しぶりに見た。稜太が号泣してるの」
「い、言わないで…」
蓮の前で大泣きしたのは小学校以来で、言葉にされると余計に恥ずかしくなる。
うわーって内心悶絶してれば、不意に蓮の表情が曇った。
「…ごめんな」
「えっ、勝手に泣いたの俺だし…。謝るのは違うだろ…」
「あはは、…うん、でもごめんね」
「……俺もごめん」
何となく、続く言葉が見つからなくて俺も蓮も黙った。
しん、とまた静まり返るけど、さっきみたいな重苦しさはなくて、少しだけ安心する。
「…俺、もう完全に蓮に嫌われたって思ってた」
「俺がお前のこと嫌うわけないじゃん。むしろ俺のほうが嫌われたかもって思ってた」
「そんなわけないじゃん…、ほんとワガママでごめん」
蓮をまっすぐ見てそう言えば蓮が少しだけ目を丸くした。
意外だって言いたそうな顔。
「稜太のはワガママとは違うだろ?」
「そ、うかな…。でも蓮が心配してくれてたのに俺聞かなかったしさ…」
「うーん、でもまあそのほうが稜太らしいって思うよ?頑固なのは昔からだし」
「えっ!そんなことは…、」
違うと言いたいけど心当たりが多くて言葉に詰まる。
とりあえず蓮だって相当頑固だと思うけどって言葉は飲み込んだ。
この話が延々と続きそうだし。
「それにさ、なんだかんだ稜太は人を見る目はあると思うから、たぶん大丈夫じゃないかって今はちょっと思ってる」
「れん、」
「まあ、ちょーっとだけだけどね」
意外な蓮の言葉に驚けば、蓮がいたずらな笑顔を向けるから自然と俺も笑みがこぼれてた。
こういう何でもないやりとりがやっぱり嬉しくて、蓮が歩み寄ってくれたことに感謝してもしきれない。
なんて、しみじみ思っていると蓮がちょっとだけ真面目な顔になった。
「なぁ稜太、一個だけ確認したいんだけど、」
「え、なに?」
「やっぱ稜太って本山のこと好きなの?恋愛的な意味で」
「ブフォッ…!!」
「あ、やっぱそうなん?」
「…な、ななななな!?!?」
さらりとなに物凄い質問を投げかけちゃってんのこの人!!
俺吹き出しちゃったよ!
良かった!
口の中に何も入ってなくてほんっとに良かった…っ!!!
びっくりし過ぎてアワアワするしかない俺をよそに、蓮はそっかぁとか何か納得したように呟いている。
その様子に赤くなったり、青くなったり定まらない俺の顔。
いつから気付かれてたんだとか、何でそんな納得顔しちゃってんのとか、もう脳内が修羅場。
いや違わないけど、違わないんだけども!!
なんだろうこの恥ずかしさというか、このどうしようもない気持ち!!
「な、なんで…」
「ん〜?本山にかなり拘ってたし、何ていうかこう…稜太の行動とか本山の話してる時の表情とか?何となくそうなのかなって」
「……そんなにわかりやすかった?」
「うん、かなり」
「…………」
あっさりと頷かれてもう何て言って良いのかわからない…
もうアレかな、俺クローゼットの中に入っても良いかな?
蓮が帰るまで出て来ないけど。
「でもちょっとすっきりした」
「え?」
「てか、それならあんまり余計な口出しはしないほうがいいよなぁ」
「…ぇ、」
「だって、人の恋路を邪魔する奴は、って言うじゃん?俺馬に蹴られたくないし」
あははと蓮は笑うけど俺は笑えません。
いつかは言えたらいいなって思ってたけど、まさかこんな早くにとか想定外すぎ…
しかもバレるとか…
「…ひ、ひいた?」
「ん?まー稜太がっていうのは意外だったけど、ひいたりはないよ。俺そういうの全然気にしないし」
「そ、そっか…」
カラッと笑う蓮に良かったって胸を撫で下ろした。
蓮は軽蔑とかそういうのはしないヤツって思ってたけど、やっぱりちょっと怖かったし。
「それにさぁ、実は俺の初恋も男だったんだよね。まあもう終わった話だけど」
「!!!」
ガコッて顎が外れたかと思った。
あははって笑いながらものすごいことを言ってのけたよこの人…!!
「……聞い、てない……」
「だって言ってないもん。まーいいじゃん終わった話なんだから」
「…………」
「あ、そう言えばアレ新刊出てたよな〜稜太貸して〜」
「あ、うん…」
驚き過ぎてフリーズする俺を放置で蓮はもう我関せずというか、もうその話終わりー!みたいな感じで本棚のマンガを物色し始めた。
ダメだ…これはもう聞いても教えてくれないパターンのヤツだ。
振るだけ振って後は放置とかどんだけサディストなんですか蓮さん…!
忘れるべきかと思うものの、でもやっぱ気になる。
とりあえず脳内フル稼働で記憶を呼び覚ます。
それでもやっぱりそういう素振りも微塵もない。
ていうか蓮さん、中学の時彼女いたよね?
いやでも初恋だからもしかしたらめちゃくちゃ小さい時の話かもしんないし。
ああ"ー!やっぱわっかんない!
「……蓮さん」
「何も教えないから」
「…………」
結局、蓮が帰った後も悶々と考え続ける俺だった。
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