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「お茶を飲んだらさっさと俺に着いて来い。仕事が山程ある」
即効こき使かう気だなこいつ。
俺は今仕事よりもこれからの生活が大事なんだよ。
部屋は無いしホテルも予約取れてないし、仕事終わったらどこに帰れと言うんだ。
味わって飲みたかった紅茶を一気に喉に流し、俺は勢い良くソファから立ち上がった。
「仕事の前に部屋を探してもいいか?」
それくらいいいだろう。
いきなり転勤命令出されて何の準備も出来ていないんだから。
「駄目だ」
「はあ!?ふざけんなよ、こっちはいきなり呼ばれて住む部屋も泊まるホテルもないんだぞ!!」
「あまり騒ぐな。周りに迷惑だ」
はっ、しまった!!
さっきの美人さんに変な所を見られてしまった。
ヒソヒソと彼方此方で俺達を見て何か話している。これからここで働くというのに、俺のイメージがだだ下がりだ。
あー、もうやる気ねぇ。
「部屋は俺が用意する。だから着いて来い」
「え、マジで?」
「ここではその言葉遣いはやめておけ。仮にも、俺は社長だ」
うわ。こいつ社長を武器に使いやがって。
ちょっとイケメンで高校時代に俺に勝ったからっていい気になるんじゃねぇよ。
「はいはい、わかりましたよー」
「はい、は一回だ」
「……はい」
「宜しい」
とことんムカつく野郎だな。
俺もなに素直に言う事聞いてんだよ。バカ。俺のバカ。
心の中で悪態をつきながら、歩き出した冴木の後ろを仕方なく着いて行く。
6つある内の一つ、一番端にあるエレベーターに乗り、最上階のボタンを冴木が押した。
社長室だろうか。このエレベーターには最上階のボタンしかない。どんな部屋なんだろう。
「………」
「………」
ち、沈黙が辛い。あれだけ下で言い合ったのに、いきなり静かになりやがって。
何か言えよ。仕事が山程あんだろ。説明でも何でもいいから話せよ。
「……すまなかった」
「……は?」
何だいきなり。
「あの時、お前を刺して悪かった」
近い近い近い近い。
いつの間にか冴木が俺の目の前に居て、腰に手が添えられている。
後退するも、ここはエレベーターの中。背中が直ぐに壁に当たってしまった。
至近距離で初めて冴木の顔を見たが、目鼻立ちがハッキリしていて、やっぱりイケメンだ。
イケメンで社長とかマジムカつく。
「傷を、見せてくれないか?」
「はあ?何で見せなきゃなんねぇんだよ」
「言葉遣い」
腑が煮え繰り返りそうだ。一発殴ってやろうか。
「何故、冴木社長に見せなくてはいけないのですかー?」
「見たいからだ」
「見せる理由がありませーん」
「俺が付けた傷だ。だから見せろ」
「うわっ、何しやがるっ!」
ワイシャツをスラックスから引っ張り出しそうとする冴木の手を掴んだ所で、エレベーターがチンと鳴った。
助かった。
「……チッ」
何舌打ちしてんだよこいつ。
傷なんか見ても面白くないだろうに。
あ、解った。この傷を見て俺をバカにしようとしたんだな?
お前は俺に刺された弱虫ちゃんとかなんとか、子供かっ!!
「シャツを仕舞え」
「お前が出したんだろっ!」
「言葉遣い」
パシンと廊下に乾いた音が響いた。
キャアッと、女性の悲鳴が聞こえてハッとする。
やべ、俺は冴木に手を出してしまったらしい。
「短気は損気だぞ。ガキが」
さすが元ヘッド。俺の拳は冴木の手の内に収まっていた。
女性が見ている所で変な事は出来ない。
ここは、平社員の俺が我慢するしかないだろう。
俺はもう大人だ。
ここで問題を起こす訳にはいかない。
「……申し訳ございません、冴木社長のキレイな顔に蚊が止まっていましたので排除しようかと」
「それはお気遣いをありがとう。おかげで蚊は居なくなったよ」
周りは気付いていない。
俺達がガン飛ばし合っている事を。
俺と冴木の間には火花が散っている事だろう。
握られている拳が痛い。
「そろそろ、お手を離しては頂けないでしょうか?蚊は、居なくなったのですよね?」
「ああ、蚊は居ない。……最初からな?」
「いっ…!!」
ぐっと拳を掴まれている手を引かれ、耳元でそう言うと、冴木に耳朶を噛まれた。
「な、何しやっ!!」
文句を言ってやろうと開いた口は、柔らかくて温かい何かに塞がれてしまった。
それが何なのかを気付いた時にはもう遅く、閉まり掛けていたエレベーターの扉を冴木の脚か止め、俺の口は塞がれたままエレベーターの中へと戻されてしまう。
ゆっくりと閉まる扉の音を聞きながら、俺は、何故こんな状況になってしまったのかと、呑気に考えていた。
「んっ…ふ」
ぬるりとしたものが口腔を弄る。
何なんだ一体。
俺は何故冴木にキスされているんだ。
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