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「…気に入ったのか?」
俺の顔を覗き込む様に近付け、ネクタイに触れようとした冴木の手を払ってやる。
カランと、俺のネクタイピンが飛んで床に落ちた。
それを拾おうと手を伸ばしたら、先に冴木がピンを拾い、自分のポケットに仕舞ってしまった。
「返せよ」
「気に入ったのかと聞いているんだが」
なんで何回も聞くんだよ。聞かなくても解るだろうが。
1DKのユニットバスに住んでた俺にとっちゃあ、こんな高級マンションは喉から手が出る程欲しいくらいなんだから。
「…そりゃ、こんなすげぇ所気に入らない訳ねぇだろ」
「そうか、なら良かった。お前の部屋はここだ。昨日、必要最低限の準備はしておいた。見てみろ」
リビングの隣には二つのドアがあり、俺の部屋だというドアを冴木が開ける。
部屋の広さは8畳くらいだろうか。
デスクにパソコン。テレビと丸いガラステーブルに、1人掛けの小さなソファーみたいな椅子と本棚があった。
必要最低限とか言うけど、十分に揃っている。
ただ、一番大事な物がここには無い。
「ベッドは?」
「俺の部屋だ」
「なんでっ!?」
おかしいだろ。何でベッドが冴木の部屋に置いてあるんだ。
「二人しかいないのだから、ベッドは一つで十分だろう?」
こいつの感覚は一体どうなっているんだ?
むさ苦しい男2人が仲良くベッドに寝るとかどう考えてもあり得ない。
「俺、床で寝るから今から布団買いに行こう!」
「それは、俺と一緒に住む決意をしてくれたという事だな?」
えー。決意って何。
そんな大それた決意をした覚えはないんですけど。
「部屋が見つかるまではお世話になろうかなって思ってるんだけど?」
「ならベッドも布団も買わない」
「なんでだよ!」
「お前の為に新調したベッドだからだ」
あー、ベッドまで俺の為と。
何で俺にそこまでするかな。やっぱり、俺の腹を刺した事ずっと気にしてんのかな。すまなかったって言ってたし。
償いかなんかか?
そんなの、気にしてねぇのに。
あれは…冴木が悪いんじゃない。俺が気付けなかったから、いけなかったんだ。
俺が冴木に負けて恥ずかしいと感じているのは、本当は、喧嘩で負けた事じゃない。
他の族の冴木が気付けて、身内の族の異変に気付く事が出来なかった自分に、俺は負けを感じているんだ。
きっと、冴木にお前は悪くないと言っても、今の冴木を見ていると、そんな事言っても何も変わらないだろう。
キスもそうだけど、俺に対する態度が必死の様に思える。
「…分かったよ。そこまでしてくれんなら、断る理由はない。…これから宜しくな?」
手を出せば、冴木は頬を緩めて俺の手を握り返した。
冴木がもしその事を気にしていて、俺にここまでするのなら、それを無下には出来ない。
冴木の気が済むまで、付き合おうと思った。
握られた手に、冴木の唇が落ちる。
ただ、静かに、冴木は俺の手の甲に口付けた。
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