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もそもそと緩慢な動作で俺の上から退き、ベッドから降りる。
冴木にネクタイを胸の上に投げられ、それが自分のネクタイだと知った。
「お前、もしかして…」
あのリアルな夢はこいつのせいか?
何となく、あの夢のキス…こいつとしたキスと似ている感じがした。
「…早くネクタイを着けろ。そろそろ仕事を始めないと、お前が大変だ」
それだけ言って、部屋を出て行った冴木の後姿が何故か重く感じて、俺は大人しくネクタイを締めた。
何だろうこの感じ。胸がもやもやする。
あ、胸…。
新しい職場で働くからと、新調したばかりのワイシャツの胸の辺りには小さな皺が寄っていた。
途中から少しおかしな感じがして、もしかしたらとは思っていたけど、冴木…俺の胸触っていたのか。
「あー、マジ意味わかんね」
俺と冴木は会えば喧嘩ばっかでよく知らない。
真面に話した記憶はない。
何で俺にキスすんのか解らない。
新手の嫌がらせか。
でも、俺が忘れさせてやるって言うのは…やっぱり、何か知っているんだろう。
「失礼します」
「え?」
ベッドの上で考えに耽っていると、さっきデカイ扉の前に居た1人の女が部屋に入ってきた。
ビシッと着こなした黒のストライプスーツ。黒で艶のある髪を後ろで束ね、団子みたいに纏められている。
「晴山涼太様、社長がお呼びです」
「はぁ、貴女は?」
「失礼致しました。私、副社長の秘書で箕面楓と申します。昨日まで冴木社長の秘書をしておりましたので、何か解らない事がございましたら私に」
「ご丁寧に有難うございます、あの、社長室は…」
「この部屋の扉を開ければ直ぐでございます。後、ここは秘書室ですので、私も使用します。ですので、冴木社長と何かございましたら、扉の前に使用中のプレートを下げておいて頂けますか?」
どういう意味だ?
「その、使用中だと知らずに私が部屋に入ると、お邪魔してしまいますので」
ポッと音が鳴るんじゃないかと思う程頬を赤く染めて言う彼女に、俺もつられて顔が熱くなった。
そういう意味かよ。
てか何で知ってんだ?やっぱり、あのキス見られていたんじゃ…。
最悪だ。
「いや、あの…そういう事は無いと思いますので…」
「……」
何で黙るの!
淵のない眼鏡の奥に見える彼女の目は、確実に俺を疑っている。
あー、終わりだ。本当に、俺は終わった。新生活が台無しだ。
「無いです!!絶対に無いですっっ!!」
「ふふっ。晴山様、必死で可愛いですね。冴木社長の言っていた通りのお人で。これから宜しくお願い致しますね?」
冴木が、言っていた?何を?
「こ、こちらこそ宜しくお願いします!」
手を出されて、俺は慌ててベッドから飛び降り、彼女の手を握った。
小さくて、柔らかくて、真っ白な手。
女が好きな俺は、女の手に触れるだけでテンションマックスになるはずなのに、彼女の手を握っても、ちっともドキドキしなかった。
「では、行きましょう。引継ぎがありますので」
彼女の手が離れ、自分の掌を見てみる。
熱は引き、中心もいつの間にか治まっていた。
扉を開けて待ってくれている彼女の所まで行き、部屋を出る。
そこには、何やら書類と睨めっこをしている、社長らしい冴木の姿があった。
俺達に気付いた冴木は書類から顔を上げて、俺と彼女を交互に認めると、深く息を吐いた。
「やっと来たか。すまなかったな、箕面」
「いえ、何かございましたらいつでも仰って下さい」
「午後からの件だが、晴山君に伝えてもらえるか?」
「了解しました。晴山様、こちらへ」
何だ。冴木、普通じゃん。
てか晴山君って何だよ気持ち悪っ。
「晴山様?」
「あ、はいっ」
名前を呼ばれて彼女の手が示す椅子に腰を下ろした。
部屋の中心に置かれた6人掛けのテーブルと椅子。
そのテーブルの上に、彼女が持っていた鞄が置かれ、中から分厚いファイルが出される。
それを俺の前に置くと、
「18時からヤマトミ建設の山冨社長と対談がありますので、午後17時までに、これを全て覚えて下さい」
………無理だ。
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