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「でも、これ…結構分厚いですよ?」
「……ではまず…ヤマトミ建設の方の名前を覚えて下さい。それが終わりましたら対談の内容を見ていて下さい」
俺の言葉を無視して、彼女はファイルを開いた。捲られたファイルの1ページ目にはズラリと人の名前が載っている。
ザッと見て50人は居るだろう。会社として少ないように見えるが、名前と内容を4時間で覚えるのは至難の技だ。
というか腹減った。昼飯食いたい。今1時だぞ。
「今から、休憩無しでこれを?」
「はい。ですが…内容は少し把握するだけで構いません。名前は今日中に覚えて頂かないといけませんが、内容は何と無くで構いませんので」
「いや、でもさっき全てって…」
そんな適当でいいのだろうか?
でも今からじゃあ俺の頭では覚える事は不可能だ。名前だって覚えられるか分からない。
「冴木社長が内容について晴山様にお聞きする事があるかもしれませんので、覚えていた方が恥ずかしい思いはしなくて済むとは思います。ですので、覚えていて損はないかと」
いやー、損とか関係ないっしょ。初仕事で恥をかくのは勘弁だ。意地で覚えられるだろうか。
てか冴木、社長のクセして秘書に頼るのか!?
横目で冴木に目をやると俺を見ていた。口角を上げてニヤリと笑っている。
あー、こいつ…絶対俺に恥をかかせる気だ。俺の本気を見せてやろうではないか!!
「やれるだけやってみます。他には?」
引継ぎと言っていたから仕事が沢山あるのだろう。出来れば書類纏めるとか、物件調べとかがいいな。
部屋見んの好きだし。
「後は…帰ってきてからにしましょうか。会社に着きましたらこちらに連絡を下さいますか?」
出された名刺を受け取って見てみると、彼女の名前とアドレス、電話番号が載っていた。
「…わかりました」
席を立ち、カツカツとヒールの音を立てて彼女は社長室から出て行く。その後ろ姿を見て、ケツサイコーなんて思った自分に酷く安心した。
さっき彼女の手を握ってもテンションが上がらなかったから、冴木が会って早々に変な事してくれるから、
だから…おかしくなったってぇのか?
んな事ねぇだろ。冗談じゃない。俺は女が好きだ。男なんて、まして冴木なんて、あり得ない。
あー、ダメだ。早く覚えないと恥をかく。名前に集中しないと。
「えーと、秋田宗吾、道端充、坂口輝…」
くそ、男ばっかな上に腹減って暗記どころじゃねぇよ。クッキーなんて既に消化されて腹がぺったんこだ。
何か食わしてくんねぇかな、と、冴木を見ると真顔でこっちを見ていた。
うわー、見過ぎ見過ぎ。見られ過ぎて目線が離せない。てかさっきも目が合ったよな。あん時は変な笑み浮かべてたけど。
今は頬杖着いてジッと俺を見据えている。
何か話し掛けた方がいいのか?飯食わせてーって言ったら食わせてくれるだろうか。
「…どうした?出来ないのか」
そう言う冴木の顔はさっき見たニヤリとした笑みではなく、少し心配している様な顔に見える。
何だ。こんな事が出来ない俺に同情でもしてんのか?嫌な奴だ。
「腹減ってるだけだ。こんなもんちょろいね」
何て事言わせんだよ!挑発に乗るなよ俺のバカ!!ちょろくねぇよこんなの…あー、ぜってぇ恥かく。
「ほう…それは楽しみだ。なら、飯食うか?」
「え、いいの!?」
飯食うか?の一言で俺は大袈裟に椅子から立ち上がった。
そんな俺を見てクスクスと小さく笑う冴木に、何故かドキリと心臓が跳ねる。
何だろうこの感じ。
「どうした?顔が赤いぞ」
「え?えっ?」
そう言われて思わず顔を両手で覆ってしまう。
別に顔はそんなに熱くない。
「ぶっ…はははっ。じょ、冗談だ。飯、用意してやる」
うわ、うわうわ…すげー恥ずかしいっ!!
それまで普通だった俺の顔は一気に熱を帯びて熱くなった。
あー、穴があったら入りてぇ。
「ちょっと待ってろ」
どこかに電話をかける冴木を睨みながらゆっくりと椅子に座った。
くそ、冴木の奴騙しやがって。
ブサイクなツラにするだけじゃ済まねぇな。俺も騙してやろうか。
どう騙してやろう。
対談内容適当に言うか?いや、そしたら会社がヤバくなるな。
「どうした?嬉しそうな顔をしているな」
電話が終わったらしい冴木は俺を見てクスクス笑っていた。
この時、俺はある事を思いついたんだけど、それが最悪な事態を招くとは思いもしなかったんだ。
解っていたはずなのに、バカな俺は冴木を騙す事しか頭になかった。
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