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-- 過去5(※長め、暗め)
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暗い廊下。
点滅する明かり。
扉が開いたら始まる、地獄の時間。
両親は生まれた俺を見て歓喜した。
しかし成長した俺を見て落胆した。
俺は外で駆け回るのが好きで勉強が苦手だったから。
母は弟を宿した。
生まれた弟は可愛かった。
しかし両親は変わっていった。
言葉を話し始める前から異国の言葉を教え、外には出さず本の虫にした。
弟が外に出ると叱りつけ、本を読むと褒めに褒めた。
弟はどんどん賢くなった。
顔も整っていて肌の色は白く儚げだ。
その姿をも両親は褒め讃えた。
俺には見向きもしなくなった。
俺は成績が悪かった。
成績が悪いから顔も悪いのだと叱られた。
部屋を出れば音を立てて歩くなと言われ
トイレを使えば毎回隅々まで綺麗にしろと怒られた。
5分以内にできなければ殴られた。
話しかければ空気が汚れると言いながらマスクを付け、
触ろうものなら手を叩かれ汚いと罵られた。
無論風呂など一番最後で、俺が入るころには真冬でも湯が抜かれていて
給湯器も入っている途中でオフにされた。
お前が存在するだけで私たち家族に悪影響を及ぼすのだ――
弟はそんな俺を見下すようになった。
両親の前では儚げな優等生を演じ、俺と二人きりになれば罵り殴り部屋を荒らすようになった。
そして両親が帰宅すると「兄が暴れて殴った」と泣きながら報告した。
俺は父親に血が出るほど殴られ、母親には人間の屑と罵られた。
俺が中学生の頃だった。
父も弟も人の目に付く所に傷は付けなかった。
誰かに言えば殺すと脅され、しかしお前の言うことなど誰が信じるものかとも言った。
俺は自分が話せば空気が汚れると思い口を開くことをしなかった。
自分が触れば汚れてしまうと思い机と椅子以外の学校の備品に触れなかった。
高校も何とか乗り切った俺は家を出ようと思った。
最低限の荷物を持ち、両親達が寝ている真夜中にこっそり出て行こうとした。
だが自分の部屋を出た瞬間弟と鉢合った。
まずい――
弟は大きな声で、兄さんが虐める、と叫んだ。
気が付いたら病院だった。
所々骨が折れていたらしい。
医者はご家族は来られないようだと言ったが、俺は家族なんていないと答え再び眠りについた。
医者と話すより、何十年ぶりかの清潔でふかふかな布団で眠る方が大事だった。
女性看護師達は親が来られない理由や常習的に受けているであろう
暴力の痕を見て俺を気遣ったが、好奇心は見え見えだった。
やはりここでも、治療中に遠まわしに探り探り、俺の生い立ちを抜き取られた。
こいつらは白衣の天使なんかじゃなく悪魔だと痛感した。
退院後は寮付きのバイトを始めた。
手袋とマスクを着用し誰とも話さなくて済む工場で働いた。
周りにいた人は俺に話しかけてくれた。
辛いことがあったのなら話してくれと言われた。
優しくされたのは久しぶりで嬉しくて、俺は泣きながら生い立ちを話した。
皆「それから、どうした?」と親身になって聞いてくれた。
だが、次の日俺の話は工場中に広まり、皆が俺を冷たく見ていた。
話しかけてきた連中は「面白ネタが尽きたのなら用済み」と俺に言った。
何とか給料日まで耐え、その日に辞めた。
その後は街から街へ転々としつつ日雇いバイトで食いつないでいた。
給料を受け取ったら街を移動し、夜はネカフェで過ごした。
だが若いのに日雇いに来るのは珍しいとベテラン達に生い立ちを根ほり葉ほり聞かれ、
話しても話さなくても俺は拒絶された。
――やはり俺はいらない人間なのか。
悲観ではなく、納得した。
俺は存在するだけで人々に悪影響を及ぼす、汚い人間の屑。
――そうか。俺は生きていてはいけないんだ。
そう気づいてからは早かった。
死ぬのに最適な場所と行き方と死に方を調べた。
金が少し余っていたし、酒を飲んでみたかったから人の少なそうなバーにお邪魔した。
マスターは常にグラスを磨いていたから俺が汚したくらい気にしないと自分に言い聞かせた。
毎日通うのは気が引けたので週に一回、決まった日に顔を出した。
3回程通うと、持ち金が死に場所までの交通費のみになったので出発しようと決意した。
すると――
――あの
――随分顔色が悪いように思えるのですが
――ああ、また人の過去を暴いて垂れ流したいだけの人間だ。
俺は適当に相槌を打って店を出た――
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