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-- 過去7(葉月side)
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―過去、とあるバーにて―
締め切り前というのは、どの業種でも忙しいもので。
突然の変更、見落としていたミスの発見、追加。
何度同じことをしていても人というものはどうしてもミスをしてしまう。
何度経験しても、体はどうしても疲れてしまう。
家族や恋人がいれば違うのだろうが、それらがない人間は――
一回目は一人で飲んでいた時だった。
見かけない顔がカウンターにいる、という程度の認識だった。
ただ、顔色が悪かったことを覚えている。
二回目は同僚と飲みに来ていた時だった。
見かけない顔が窓際の席でずっと夜景を眺めている。
やはり顔色が悪く、窓がなかったら夜景に吸い込まれているのではないかと
心配になるほど生気がなく空気と同化していた。
三回目は意図して飲みに来た時だった。
見かけない顔はやはり窓際の席にいてずっと夜景を眺めていた。
見つめていたらこちらに気づくだろうかと試してみたが
彼は一度もこちらを見ることはなかった。
その時もやはり空気と同化していた。
何となく、彼は死ぬんだと思った。
本当に夜景に吸い込まれていくのだと。
何が彼をそこまで追い詰めたのか?
好奇心だった。
「いえ、随分顔色が悪いように思えるのですが」
それは本当だった。
だが彼はその言葉の奥にある好奇心を見破っていた。
「あー、あんた謎を追求しねえと気が済まねえタイプだよな。」
「だったら何ですか」
「いや、あんたみたいなやつが人を殺したりすることもあるって覚えておいてくれよ」
心に深く突き刺さった。
恋人に振られたのだろう。
仕事でミスをしたのだろう。
この時期だ、締め切り前で上司が苛々していて八つ当たりでもされたのだろう。
あなたの不幸を聞かせてくれたら、自分の不幸が楽に思える。
あなたの不幸が聞きたい。知りたい。
そんな、好奇心だった。
――彼を追い詰めたのは
私のような好奇心を持った人間か――
そして今、確かに私が止めを刺した。
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