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二人の日常2
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「おかえりー。腹減った」
不安を抱きながら帰宅して早々空腹を訴える人間を抱き締めた。
心がざわついて仕方が無い。
「ぐえっ……く、くるし…えっちょ…ま、し、しま、締まってる」
「締めてるんですよ」
「締めんな!!」
彼が生活している部屋、彼自身をじっくりと観察してみたが特に変わり無い様だった。
「はあ……」
「どうしたんだよ?何か疲れることあったのか?」
「そうですね…疲れることもありましたし、これから疲れるかも知れません…」
「なんだそりゃ?出張ラッシュはまだ先だろ?」
「そうなんですが……」
そう言って自身が勤める会社の記者見習い制度について説明した。
分かっているのかいないのか、「何かすげーんだな」と暢気に言う彼に対し葉月はため息を吐いた。
「問題はその入門者でして……ここから少し、赤塚さんに質問があるのですが」
「何だよ?」
「いえ、あるのですが、恐らく貴方が話したくない領域に入ると思うんです」
「……」
1年程一緒にいるが、その間一度も口にしなかったということは話したくないということだ。
思い出したくも無いのかもしれない。
だが、今回だけは絶対に聞き出さなくてはならない。
「そうでないと、貴方を守れないかもしれない」
「………何だそりゃ。」
全く先の読めない彼は頭の上にクエスチョンマークを連立させるだけだ。
せっかく平穏を手に入れたのにそれを自分の手で壊してしまう気がして葉月は気分が悪くなった。
「赤塚…裕人という人物を知っていますか?」
そう聞いた途端、彼の顔色が変わった。
血の気が引き青白くなり、体が震えだした。冷や汗をかき、一歩、二歩と後ずさる。
「落ち着いてください。私がいますから…大丈夫です」
先ほどとは違い子供を宥めるように抱きしめ背中を摩る。
大丈夫、大丈夫と声をかけていく内に落ち着いたようで、彼は震える声で過去を紡ぎだした。
「それ…は、弟だ…裕福の裕に、人、だろ……?それは、弟だ……」
そんな。こんなところまで。どうして。どうしよう。
「その方が、記者見習いの方なんです。そして、こう言っていたんです」
『――僕、兄がいまして。その……昔、僕は兄に対してとても酷いことをしていたんです。』
『それがあって、兄は家から出て行きました。必要最低限の荷物だけを持って。』
『それから自分の異常に気づいて…謝りたいんです。謝ったところで、傷は消えないし、完全な自己満足なんですけど』
『記者になれば合理的に地方へ行ける。兄を捜すこともできるし、両親から離れることもできる』
『だから、記者になりたいんです。………とても自分勝手な動機ですけどね。』
「あいつ…あいつは、駄目だ……危ない」
「…何があったのか、聞くことはできますか?ある程度知っておいた方が貴方を守れる確立が上がる」
「……あいつ。俺を人と思ってない。俺は家族のサンドバッグ……代わりが、いないんだ」
「………謝りたい、というのは本心でしょうか?」
「……………代わりを探してるようにしか俺には聞こえない。」
「赤塚さん。」
また抱きしめる。左手で手を握り、右手で頭を撫でる。
泣いているのか、右肩が湿っていくのがわかった。
「私がいますから。大丈夫ですよ。」
そうは言ったものの、どうするか。
彼の反応を見る限り、裕人という人物が「酷いこと」をしていた事実に偽りは無い。
だが、「謝りたい」については全く分からない。
―裕人という人物を知らねば。
普段ならばできるだけ他人と距離を置きたいのだが、今回だけはそうも言っていられない。
裕人という人物との距離を詰めて知っていかなければならない。
もしも今同じ街に住んでいるとしたら、ばったり出くわすことも有り得るのだ。
その時にどうなってしまうか……
他人を一方の主張だけで決め付けることはしたくないが、目の前の彼の反応を見てしまうと
どうしても悪者に思えてしまう。
私は、冷静に中立でいなければ。
そう心に刻み、泣き疲れたのか眠ってしまった彼を寝床へと運んだ。
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