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5.仁科
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男が向かった方向から、風呂を洗っているらしい水音が聞こえてくる。
…本当に俺を家に泊める気なんだろうか。
半ば無理矢理マンションに連れて来られた俺は、今コーヒーを出されてソファーに座っている。
ブラックで良いかと聞かれたが、その前に“君”と呼ばれるのに違和感を感じて無意識に名を名乗った。
あ、質問に答えてない…まぁブラックで良いんだけど。
渡されたマグカップに口をつけコーヒーを口に含むと、ふわりと程良い苦味が広がった。
あ、美味い…。
そのままゆっくりと味わいながら、全て飲み干してマグカップを机に置いた。
男の名前は仁科孝史というらしい。
駅のホームは暗かったし俺が錯乱していたこともあって気付かなかったが、俺より少し年上らしくて柔らかい物腰の男だった。
飄々と色々進めていってしまうし、何だか本心が読めなくてやりにくい…。
とにかくそいつ…仁科は、俺を家に泊めるつもりらしかった。
ついでに俺が自殺でもすると思ってるらしく何もしないように釘を刺された…んな事するかよ。
流石に他人の家で問題を起こす程、俺は馬鹿じゃないと思ってる。
…もう迷惑は掛けてるんだけどな。
ぐるりと見渡してみると、細かい物も整頓され家具の基調の揃えられた落ち着いた部屋だ。
他人の一人暮らしの家なんてあまり入ったことは無いが、センスが良くきちんと生活しているのだろうことは想像できた。
そんな事を色々考えていると、仁科が戻って来た。
「お待たせ。服脱いでるうちにお湯溜まるだろうから行ってきていいよ」
「…じゃあ、お言葉に甘えて」
「バスタオルは洗濯機の上に置いてるからね。あ、あとロンTとスウェット出してるから使って」
「…ん」
何でこいつは見ず知らずの俺にここまでするんだろう。
目の前で…投身なんてしようとした俺を。
そんな疑問を抱きながらリビングを出た。
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