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6.痣
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風呂場の方から水音が聞こえる。
会ったばかりのこんな男の家に泊まるなんて警戒するんじゃないかと思ったが、素直に入ってくれたようだ。
ふと机の上に置かれたマグカップを見ると、コーヒーが綺麗に飲み干されていて思わずくすりと笑みが漏れた。
ちゃんと全部飲んでくれたみたいで、何故だか少し嬉しい。
暫く寝室を片付けたり、カップを洗ったりしていると、後ろから声がした。
「…お先、どうも」
「はーい。あ…その傷」
「……」
「ちょっと待っててね」
風呂に入るときに湿布を外してしまったのだろう、さっきまで湿布をしていた左頬は、赤黒い痣ができて腫れ上がっているのが見えた。
すぐにソファーに座らせて、棚から救急箱を出してくる。
「動かないでね」
「…っ自分で!」
「いいから、よれちゃうでしょ」
傷を押してしまわないように気をつけながらそっと湿布を貼ると、冷たかったのか陵は少しだけ眉根を寄せた。
剥がれないようにテープで留めて、これで1日はもつだろう。
「ん…どうも」
「どう致しまして」
無愛想だけどちゃんとお礼を言おうとする所は素直で可愛いかもなぁ、なんて思いながら笑いかけると、少し困ったように目を伏せた。
何か言いたげな様子だが、じゃあ俺も風呂入ってくるから、と言ってリビングを出る。
きっと彼は俺が事情も何も訊かずに家に置いていることが疑問なのだろう。
でもそれを分かっていて…俺は敢えて、その話題を向けようとはしなかった。
この時はまだ、恐らく深い事情を抱えているのだろう彼の話を聞いて、背負ってあげられるだけの覚悟は整っていなかった。
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