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8.AKI
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風呂から上がると、ソファーにあったはずの陵の姿が無くなっていた。
まさかまた…そんな考えが頭に浮かぶ。
しかしそれはすぐに杞憂で終わってくれたのだと分かった。
すーすーと聞こえる呼吸音に、俺はゆっくりとソファーに近付いてみる。
「あぁ、寝ちゃったのか」
陵は肘置きを枕代わりにして横になり、静かに寝息を立てていて、居なくなってしまった訳ではなかったことに安心する。
眠っている彼は、起きている時より無防備で少しだけ幼く見える。
肌は健康的な色だが色白で、鼻筋の通った端正で綺麗な顔立ちをしていた。
「陵、こんな所で寝ると風邪引くよ」
「…ん…………アキ…っ…」
少しだけ身体を捩り陵がぽつりと発した言葉に、俺はその肩に伸ばしかけた手を止めた。
“アキ”……確かに今、彼はそう言った。
それは果たして家族なのか、友人なのか…それとも恋人の名前か。
その正体は分からないが、恐らく彼をここまで追い込んだ原因の一つだろう。
その証拠に…一筋の涙が頬を伝って零れ落ちていった。
このまま起こしてしまうのは悪いと思い、寝室から毛布を持ってきて彼の上に掛ける。
もそもそとくるまったのを確認すると、電気を消して寝室へと向かった。
ベッドに潜り込むと、眠る気にはなれずぼうっと天井を見つめる。
聞かないように傷付けないようにと気を遣って避けてきたのに、今の一言だけで気になってしまう自分がいた。
聞いても何も答えてくれないかもしれない、でも俺に何かできたら、そう思ってしまう。
どうして出会ったばかりの彼に…数時間前まで只の他人だった筈なのに、こんな感情を抱いてしまっているのだろうか。
理由は分からない、それでも彼に苦しんで欲しくない…自分で自分の生命の火を消して欲しくはなかった。
残業で疲れていた筈なのに、いっこうに眠気はやって来なかった。
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