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12.意味
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仁科が困っているのが目に見えて分かる。
昨日は何も訊かれないことさえ疑問に思っていた筈だったのに、いざ訊かれるとなると動揺して全く話すことのできない自分に苛立った。
あいつの言う通り、俺が直接手を掛けた訳じゃない。
でもアキは俺の所為で…
朝食で使った食器を洗い終えた仁科は、ソファーに座って新聞を読んでいる。
「…何であんたは、俺を助けようとしたんだよ」
不意に思っていた疑問が口から滑り出た。
仁科は新聞から顔を上げ、少し考えた後困ったように微笑んだ。
「…何でだろうね。気付いたら助けてた…それだけ」
「っ…あんたも死んでたかもしれないだろ!?」
「あぁ…うん、床に倒れ込んだ時にそう思った。でも君を助ける瞬間は、全くそんなこと考えてなかったよ」
自分も巻き込まれて死ぬかもしれなかったというのに、仁科は全く気にしていないという風に笑う。
訳が分からなくて…でもかっと顔に熱が集まるのが分かり、目を合わせられなくなって俯く。
それとよく似た言葉を、俺は以前に言われた記憶があった。
真剣な声が言葉を続ける。
「だから…俺が助けた命、もう無駄にして欲しくない」
「…っ…分かったよ」
生きる意味なんか無くしていた。
別に必要とされていない俺の命なんか、いつ消えたって関係ないと思っていた。
なのに、どうして。
その一言で、俺は生きなければならないと、そう思わされてしまった。
一度救われた命を、無駄にしてはならないと。
本当に…こいつといると調子を狂わされてしょうがない。
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