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14.結局
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俺があのホームにいたのは紛れもなく死ぬためで、誰かに命を救われるなんて思ってもみなくて。
それがいくら流れとはいえその助けられた男の家に外泊して世話されて…なんて迷惑な奴だと自分でも思う。
コトリ、と小さな音を立てて目の前にコーヒーカップが置かれた。
顔を上げて相手の顔をじっと見つめると、邪魔してごめんね、と笑う。
「今日休みだしゆっくりしてっていいんだよ。迷惑だなんて思わなくていいから、ここで気持ちの整理がつくならそうすればいい」
仁科はにこりと笑うと俺の向かいの席にノートパソコンを持って来て書類を広げ始めた。
その言葉に甘えてしまっていいのだろうか、どうしてここまでするのだろうか、そんな関係の無いことばかりが浮かんできてしまって、気持ちの整理をつけるどころではなくなってしまう。
「いや…やっぱり帰る」
「…そう?」
「大体の頭の整理は、ついたし」
本当は完全に纏まった訳ではないが、そう言ってマグカップの中のコーヒーを飲み干し流しに置いた。
きっと気を遣って変なことばかり考えてしまうのはここに居る所為だ。
家に帰ってもう一度、これからのことを考えようと思った。
「もう死のうなんて考えてないから」
そう言うと、仁科は安堵の表情を浮かべて微笑んだ。
だからどうして赤の他人にそんな表情ができるのか分からないんだが。
「そっか、良かった。あとさ」
「何だよ」
「ここがどこか分からないのにどうやって帰るの?」
忘れていた。
適当に電車に飛び乗った所為でここがどこか知らないし、錯乱状態で連れて来られて駅までの道順も覚えていない。
黙り込む俺に仁科は笑うと、机の上の書類を軽くまとめて携帯と車の鍵を持ってきた。
「ほら、送るよ。行こう」
どうしたって結局は、こいつに助けられた時点で世話になるしかないのか。
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