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15.心配
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助手席に座って目的地を告げて以降、じっと無言のままの陵の様子を横目で伺う。
彼の家は俺の家の最寄駅から5つ先の会社の最寄駅を通り過ぎ、更に4駅行った所にあった。
話を聞くと、どこか遠いところに行きたいという一心で適当な列車に飛び乗ったらしく、偶々降りた駅がここだったという事らしい。
もし俺が止めていなければ、本人さえも知らない遠い土地で命を落とすことになっていたのだろうかと、胸が痛んだ。
陵は今、俺の隣で何を思っているのだろう。
彼の両親は心配しているだろうか、この様子だと暫く学校には行っていなかったのだろうし、友人も心配しているのではないだろうか。
訊きたいこと、話したいこと…沢山あるのに、俺の一言でまた彼の瞳から光を失わせてしまうのではないかと思うと何も言えなかった。
「…なぁ」
「うん?」
不意に陵が顔を上げ、こちらに視線を感じる。
俺は前を向いたまま声だけで返事をした。
「……連絡先、交換して欲しいんだけど」
「こんな見ず知らずの人間と交換していいの?」
「…ちゃんとお礼はしたい」
見た目に反して律儀なのだろうか、いいよ、と返すと少しほっと息をついたような気配がした。
電源を切ったままだったらしい携帯の電源を入れたようで、何度もメールの着信音が鳴る。
あ、と小さな呟きの後、鼻をすする音がした。
「何で…普段メールなんてしてこないくせに」
「どうした?」
「…俺、やっぱり…帰らないと」
その声は震えていたけど何だか嬉しそうで。
信号で停車しそっとその画面を覗き込むと、
『今日はあんたの好きなもの作るから早く帰っておいで』
『どこにいるの?今日は帰らないの?』
そんな彼の母からのメールと着信が幾つも入っていて、何だかこっちまで泣けた。
大丈夫…君を見て心配してくれている人はちゃんといるじゃないか。
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