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19.帰宅
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仁科の車を暫く見送った後、俺はゆっくりと自分の部屋へと足を向けた。
元々家を出た時は帰ってくる気は全く無かったから、鍵なんて持ってきていない。
やはりドアには鍵が掛かっていて、ドアノブを捻るとガチャリと金属の触れ合う音がした。
変に緊張して鼓動が早くなるのが分かる…暫くそこで躊躇った後、俺は家のインターホンを押した。
中でパタパタと走る音が聞こえ、扉の前で少し立ち止まると、ゆっくりと扉が開く。
母親はいつもと変わらずに、笑顔で俺を出迎えてくれた。
「おかえり」
「…ただ、いま」
「あら、そういえば鍵は持って行ってなかったの?」
「…あ…あぁ、忘れて行った」
「あんたは…母さんが家に居なかったらどうするつもりだったの」
小言を言いながらも、仕方ない子ね、と笑って俺を居間へと連れて行く。
そのままキッチンに立つと、ガスコンロの火をつけ料理を始めた。
4つ上の兄が大学に入るために家を出て、母親と2人で暮らすようになったのは中学3年生の時だ。
俺は兄がまだ家に居た頃から所謂思春期と言うやつのお陰で荒れに荒れて困らせていた。
畳張りの居間と俺達兄弟の部屋の2つしかない小さなアパートで、何があっても朝起きると居間で寝起きしている母親が朝食を作っていた記憶がある。
いつの間にか身長も追い越して、小さくなってしまった背中を見つめる。
帰って来ても何も聞かない…俺が急に居なくなったことを、どう思っているんだろう。
「お昼食べてないんでしょう、すぐ食べる?」
「あ…うん、食う」
急に声を掛けられはっとして頷くと、母親は少し嬉しそうに笑ってまた俺に背を向ける。
考え込んでいて気付かなかった、俺の好きな煮物の香りが漂ってきた。
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